【書評】Think clearly 最新の学術研究から導いた、よりよい人生を送るための思考法

なぜこの本を手に取ったか

AmazonのAudibleで評価が高く、概要から興味をそそられたので拝聴してみました。

著者について

ロルフ・ドベリ

作家、実業家。

1966年、スイス生まれ。スイス、ザンクトガレン大学卒業。スイス航空会社の子会社数社にて最高財務責任者最高経営責任者を歴任後、ビジネス書籍の要約を提供する世界最大規模のオンライン・ライブラリー「getAbstract」を設立。35歳から執筆活動をはじめ、ドイツ、スイスなどのさまざまな新聞、雑誌にてコラムを連載。著書『なぜ、間違えたのか?――誰もがハマる52の思考の落とし穴』(サンマーク出版)はドイツ『シュピーゲル』ベストセラーランキングで1位にランクインし、大きな話題となった。本書はドイツで25万部突破のベストセラーで、世界29か国で翻訳されている。著者累計売上部数は250万部を超える。小説家、パイロットでもある。スイス、ベルン在住。

引用:https://www.sunmark.co.jp/author.php?pt=1&csid=%E3%83%AD%E3%83%AB%E3%83%95%E3%83%BB%E3%83%89%E3%83%99%E3%83%AA

よりよい人生を送るための「思考法」

著書では52の思考の道具を提案してくれていますが、その中でも自分が特に感銘を受けた、実践したいと感じた道具について概要をご紹介します。

考えるより、行動しよう

思考の飽和点に達する前に行動に移す

予測不能なリスクも含めて綿密な計画を練ろうとしている状態のことを「思考の飽和状態」と言います。このような状態に陥いる前に、行動に移すことの大切さを説いています。トヨタでも「6割良いと思えば動け」(トヨタ 仕事の基本大全 p.344 KADOKAWA/中経出版)と指導されています。何事も思考の中でできること、得られることは限られているのです。

何でも柔軟に修正しよう

人は「完璧な計画」を求める傾向がありますが、計画通りに物事が進むことなど100%あり得ません。ある程度の目途が立った段階で計画を実行に移し、定期的に見直し、修正していくことが正しいやり方であると説いています。

戦略的に頑固になろう

決断には一定のルールを設け、そのルールに従って即断即決することがよいそうです。例えば「仕事Aは引き受けるが仕事Bは一切引き受けない」など。その場その場で柔軟に対応し判断していると「判断疲れ」に陥り、最悪の選択をしてしまう可能性もあります。「例外」を作らず、100%ルールに従うのがコツです。

好ましくな現実こそ受け入れよう

「失敗」は受け入れ難いものですが、勇気をもってそれを素直に受け入れ、失敗の原因を突き詰めることを習慣化することで自身の人生のかけがえのない財産となります。

自分の感情に従うのはやめよう

一時の喜怒哀楽の感情は「鳥」のようなもので、自分の頭の中の広い空間を一瞬で飛び去って行きます。その「鳥」は縦横無尽に様々なスピードで飛び交うため、捕まえることはおろか予測すらできません。そんな「鳥」にいちいち向き合うのは止め、自由に羽ばたかせておくことが精神的に肝要です。

ものごとを全体的にとらえよう

私たちは「年収が高ければ幸せになれる」などと、特定の要素(この場合お金)を過大評価しがちです。でも実際にはお金持ちの人だって悩みは尽きないものです。これは「フォーカシング・イリュージョン」と呼ばれる錯覚で、何事も特定の要素に捕らわれすぎないよう、一歩引いて俯瞰することの重要性を説いています。

買い物は控えめにしよう

高級なモノを買うとその瞬間はフォーカシング・イリュージョンの効果で大きな満足度を得られますが、暫くするとその効果は薄れ、日常の風景と化するものです。そんな「モノ」よりも記憶に残り続ける「経験」にこそお金をかけるべきです。

SNSの評価から離れよう

何においても「自分の判断基準」というものをしっかり持ち、それに従って評価を下すよう心がけます。SNSや周囲の評価ばかり気にしていては、自分は何に対して幸せを感じているのか分からなくなり、ストレスの元となってしまうからです。SNSや他者からの「いいね」(逆もしかり)は穏やかに受け流すことがよい人生につながります。

現在を楽しもう

過去の(美化された)思い出を思い返している時、人は幸福を感じることが研究で分かっていますが、その思い返している時間を素晴らしい何かを経験する時間に変えた方がより豊かな人生につながります。

精神的な砦を持とう

不運や状況の悪化に対する精神的な対処法など、私たちの中に持っている「思考」あるいは「思考の道具」は誰にも取り上げらることはありません。考え方の選択は人間に残された最後の自由であり、砦です。まずは自分の中に確固たる砦(思考、知識、経験)を築き、それを他者から侵されないよう屈強なものにしましょう。

解決よりも、予防をしよう

世間では「問題を解決した人」がもてはやされ「問題を未然に防いだ人」は見向きもされません。しかしアインシュタインも「賢い人は問題を解決する。賢明な人は問題を回避する。」と述べているように、後者の方が賢明なのです。予防措置を軽視せず、常々、これから起こりうるリスクを想像し、対処法を考えておくことが重要です。

注意の向け方を考えよう

投資家ウォーレーン・バフェットは成功の要因を「フォーカス(注意)」と答えました。一瞬一瞬どこに注意を向けるか意識することで人生は豊かになります。しかし私達の身の回りにはテレビ、SNS、広告など、注意を削ぐ媒体で溢れており、これらは絶えず大量の「情報」を送り付け、私たちの「注意」だけでなく「時間」「お金」まで奪っていきます。情報は、取り込み方や付き合い方を厳格に、慎重に判断すべきです。

自分の頭で考えよう

意見を求められた際、人は周囲のコミュニティの知識に頼り、コミュニティの意見をさも自分の意見のように述べる傾向があるそうです。私たちの「意見」とは「洋服」と同じで、ただ流行りものを身にまとっているだけなのです。もっと自分で調べ、考え、咀嚼し、たどり着いた内容を自分の言葉で述べるべきです。

専門分野を持とう

石器時代の名残で、人は「多彩な能力」を求める傾向にありますが、職の専門化が進んだ現代においてそれは矛盾した考えです。何かに特化した独自の専門性を身につけて「その分野の第一人者」になり、それを武器に商売やサービスを始めれば競合のいない世界で儲けは独り占めとなります。新しい専門分野を見出すことは容易なことではないですが、既に仕事に就いているならまずはその仕事に独自の付加価値を加えて「自分にしかできないサービス」を構築することが肝要かと思いました。

自分を重要視しすぎないようにしよう

人間には遺伝的に「自尊心」が備わっており、自分を重要視するほどその自尊心が過剰に働き、些細なことでそれを傷つけられたと感じてしまいます。自分を重要視しすぎるのを止める、つまり「自分の重要度を殊更に発信する行為」と「自分の重要度を過敏にキャッチする行為」を止めれば、その分の労力は減り、別のことに集中することができます。つまり、重要視しすぎないことで人生が豊かになるのです。

内なる成功を目指そう

バスケットボールコーチ、ジョン・ウッデンは「成功とは、最高の自分になるために全力を尽くした後にみられる心の平穏である」と、成功を「心の状態」として定義しました。これを「内なる成功」とよび、反対は金や物の報酬による「外的な成功」です。内なる成功を目指し、毎日を「人生の最高傑作」にできるよう努力を積み重ねることが重要です。1日の終わりに次のような振り返りを行うことが効果的です。

  • 昨日に比べて自分は何ができるようになったか
  • 何を変えられたか
  • 問題はなかったか、何が原因でどうすれば解決できるか
  • etc…

最後に

本書において特に「なるほどな」と感心した16の思考の道具をご紹介しました。専門分野の話なんかは結構チャレンジャブルですね。自分のレースを見つけられるように常にアンテナを巡らせておきたいです。

あと、本書の文面は著者のクールな知見とジョークが小気味よく織り交ぜられ、とても読みやすく(聞きやすく)頭にスッと入ってきました。これは安原実津氏の翻訳と、けんぞう氏のナレーションに依る所も大きいと感じました。