【書評】嫌われる勇気

嫌われる勇気

嫌われる勇気

はじめに

遅ればせながら、「嫌われる勇気」を拝読しました。

今回はAmazonの"audible"を使ったので「拝聴」が正しいですかね。 通勤の徒歩時間を活用のため始めました。

本書は「哲人」と「青年」の二人の登場人物の掛け合いだけで物語が展開されるのですが、セリフをそれぞれ『てらそま まさき』さん、『金野 潤』さんが演じていらっしゃいます。お二方とも演技が素晴らしく、二人の会話にどんどん引き込まれ、感情を揺さぶられました。

そういう側面でもaudibleは楽しめますので、多少高くても買う価値ありだなと思いました。

物語は悩み多き若者である「青年」が、”世界はシンプルで誰でも幸福になれる”と主張する哲学者「哲人」に論戦を挑みむため、哲人宅の扉を叩くところから始まります。

その後終始この二人の「対話」で話が展開されます。キーとなるのは「アドラー心理学」。 本書を読んで、アドラー心理学(の一端)を、私なりに整理したのが以下の図になります。

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嫌われる勇気 自分なりまとめ

この図をベースに私の解釈と、私の変化を述べていきたいと思います。

すべての悩みは、対人関係

アドラー心理学では『人の悩みに個人で完結するものはなく、全て他者の影が介在する』と謳っています。例えば自分の身長で悩んでいる人は「他者と比較して自身の身長が低い」と感じるから悩むのだと言うのです。極端な話ですが、もし世界に自分一人だけならこのような考えには至りません。

”他者と比べて自分は身長が低い”と言う「劣等感」について、アドラー心理学では「優越性の追求」と対を成す存在であるとしています。「優越性の追求」とは、”無力な状態から脱したい”という普遍的な欲求のことで、アドラー心理学で用いられる言葉です。例えば赤ちゃんは何もできない状態から生まれますが、そこから自分で手足を動かし、歩く、話す・・・と言った動作を日々体を動かしながら学び、一つ一つできるようになっていきます。つまり、無意識にもこの欲求は働いているわけです。

反対に優越性の追求による『理想の姿』と『現実のギャップ』に失望し、自分が劣っているかのように感じるのが「劣等感」です。 アドラー心理学では「優越性の追求」も「劣等感」も健全な成長の証であると言っています。 劣等感が強いコンプレックスにならない限り、人はこの劣等感をバネに努力し、成長することができるからです。

ここで一つ疑問が生じました。 先ほどの"低身長の悩み"が対人関係に由来しているのは理解できますが、それ以外の悩みはどうなるのでしょうか?パッと思いつく、自分の悩みを書き並べてみました。

  1. 物覚えが悪い
  2. やりたいことをやる時間がない
  3. 集中力がない
  4. 仕事で苦手なお客様がいる

1は自分の能力に関することです。学んだこと、ヒトやモノの名前をよく忘れてしまうのが悩みです。ここで「覚える」ことの自分の目的を思い返したところ「何らかの形でアウトプットする」ことでした。アウトプットする先は人になるため、対人関係に行きつきます。

2は仕事や育児で自分の時間がとれないことから来る悩みなので、これも対人関係です。

3は自分の能力の悩みです。「なぜ集中したいのか」を自己分析した結果、最終的には対人関係に行きつきました。

  • なぜ集中したいのか?
    • 集中して仕事に取り組んで定時退社し、家族と過ごしたい

4は、言わずもがな人間関係ですね。

結果的に、自分の悩みはすべて対人関係に帰着しました。もちろんそうならない悩みもあると思いますが、一先ず「アドラー心理学ではそう考える」という前提で理解してください。こちらの「IDEASITY」さんのブログに、その点が分かりやすくまとめられていますので、ぜひご参照ください。

ideasity.biz

人生のタスク

アドラー心理学では「人間の持つ悩みや問題は、すべて対人関係の問題」と考えます。 その上で以下の3つの「タスク」を設けて悩みや問題を分類し、それぞれに合ったアプローチをしていきます。

  1. 仕事のタスク
  2. 交友のタスク
  3. 愛のタスク
仕事のタスクとは
  • 職場や学校内での対人関係に対するタスクです。
  • どんな仕事でも、一人で完結できるものはありません。仕事の成果を目標に、他者と一致団結して協力し合うタスクです。
  • ”その仕事を辞めればそ立ち消える”ような「永続しない人間関係」の中でのタスクになります。そのため、後述する「交友」「愛」のタスクに比べて浅い関係での問題のため、解決へのアプローチも比較的容易ではあります。
交友のタスクとは
  • 友人やご近所付き合い等、「永続するが運命を共にはしない」対人関係に対するタスクです。
  • 仕事と違って強制力がない分、その人と関係を深めていくかどうかは自分の判断に委ねられ、仕事のタスクよりも難しく、勇気の試されるタスクです。
愛のタスクとは
  • 異性関係、家族関係など、永続し、運命をともにする人間関係に対するタスクです。深い人間関係の中で生じる問題は一層解決が難しいのですが、アドラーの弟子「R.ドライカース」の言葉が分かりやすかったので紹介します。

    パートナーがそれぞれもう一方のパートナーを十分に受け入れ、2人の間にお互いに感謝し合う気持ちが育つ時にだけ、愛のタスクの問題は解決する。『アドラー心理学の基礎』(R.ドライカース)

人生のタスクを支える「目標」

以上3つの「人生のタスク」は、人が生きていく中で直面せざるを得ない対人関係におけるタスクです。悩みや問題ができたら、それがどのタスクに該当するのかを見極め、解決策や対処法を導きだす必要があります。 人の悩みや問題は千差万別のため、万人に共通する対処法は存在しませんが、アドラー心理学では以下の「目標」を常に意識しながら人生のタスクに向き合うことを推奨しています。

  • 行動面の目標
    1. 自立する事
    2. 社会と調和して暮らすこと
  • この行動を支える心理面の目標
    1. 私には能力がある、と言う意識
    2. 人々は私の仲間である、と言う意識

問題解決のためにやるべき「課題の分離」

アドラー心理学では、あらゆるトラブルは対人関係における以下の2点によって引き起こされるとしています。

①自分が他人の課題に土足で踏み込む
②他人に自分の課題を土足で踏み込まれる

ここで言う「課題」とは、例えば”子供の宿題”をイメージしてください。 親が子供に「宿題やりなさい!」と促すシーンは良くある光景だと思います。 子供は自分のペースでやろうと思っていたのに、親からこのように言われるとつい反発してしまいます。

なぜ反発するかというと、それは子供にとって【他人に自分の課題を土足で踏み込まれた】ことになるからです。反対に親の行為は【自分が他人の課題に土足で踏み込む】ことそのもので、これにより子供の反発が誘発されます。上記①,②の因果関係が成り立つわけです。

また反発する真因として、多くの親は「あなたの為」と言って子供に言いきかせますが、実は”世間体を気にして"であったり、"子供への支配欲”であったり、親の何かしらの「目的」が裏に潜んでいます。(これをアドラー心理学では「目的論」と呼びます) 「あなたの為」ではなく「私の為」の行為であり、子供たちはそれを敏感に察知して反発するのだそうです。

認識すべきは、「他者は、自分の期待を満たす為に生きているのではない」ということです。 例え我が子であっても、子は親の期待を満たす為に生きているのではないということを、親は重々理解しておく必要があります。

このような対人関係のトラブルの元を絶つテクニックとして、アドラー心理学では「課題の分離」を推奨しています。その手法を以下の2つです。

  1. 自分の課題、他者の課題を分離・線引きする。
  2. 他者の課題には踏み込まない。また、自分の課題にも踏み込ませない。

たったこれだけを徹底することで、対人関係の悩みを一変することができるというのです。

他者の課題に踏み込まない

まず「他者の課題に踏み込まない」について考えます。 先ほどの「子供の宿題」の場合ですと、子供の宿題は言うまでもなく子供の課題です。なので親はそこに口出しは一切しない。自分でやり遂げるまで黙って見守ります。

じゃあ何もしなくてよいのかと言うとそうではありません。 本書にも登場しますが、イギリスのあることわざが「課題の分離」をとても分かりやすく表現しています。

You can take a horse to the water、but you can’t make him drink.
馬を水際まで連れていくことはできても、馬に水を飲ませることはできない。

「課題の分離」で言うと、”馬を水際まで連れていく”のは「私」の課題であり、”水を飲むかどうか”は「馬」の課題ということです。

これを「子供の宿題」で言い変えると、勉強しやすい環境を整えたり、励ましたりすることが「親」の課題であり、宿題をするかどうかが「子供」の課題となります。

特に重要なのは「子供を水辺に連れていくまでの過程」です。 親は以下のような『援助の姿勢』を見せ、子供が自らの力で課題に向き合うよう働きかけることが肝要なのだそうです。

  • 勉強しやすい環境を整える。
  • 勉強は楽しいことだと思わせる。
  • 成長している子供を励ます。
  • 子供から何か質問が来ない限り、そっと見守る

これをアドラー心理学では『勇気づけ』と言います。

自分の課題に介入させない

「他人」が「自分」の課題に介入しようとしたとき、無下に断ることもし辛いと思います。「他人」は「自分」に対して何かしらの”目的”をもってその課題に介入してこようとしている訳で、それをはっきり”No"と答えると「他人」はムッとするでしょう。その後の関係に影響を及ぼす可能性もあります。でも、その程度で崩れる関係ならむしろ壊してしまった方がよいとするのがアドラー心理学の考え方です。

何度も繰り返しますが、”すべての悩みは対人関係から”生まれます。 それゆえ人は、対人関係からも”自由”になることを求めています。しかし、一人で生きていくことはできないので「共同体」の中で他者と協力しあって生きていかざるを得ません。そのため人は「他人」に嫌われないよう、「他人」の顔色を伺いながらなるべく穏便に事を済まそうと心がけます。 でも、すべての人から嫌われない生き方なんて不可能であり、「他人」の顔色を伺ってばかりの生き方など不自由極まりありません。

言い変えると、”自由”とは”他者から嫌われること”になるのです。

しかし人は「嫌われたくない」という普遍的な欲求をもっています。そのため、嫌われることはとても苦しいです。 それでも、嫌われる可能性を恐れることなく前に進んでいくことが人間にとっての”自由”であり、幸せになるための勇気でもあるのです。これはつまり「嫌われることを厭わない勇気」とも言えます。 このことを理解したとき、対人関係は一気に楽になると言います。

先ほども述べた馬のことわざのように、自分の行動(馬を水辺に連れていく)によって他人が「好意をもつか、嫌悪を抱くか」(馬が水を飲むか飲まないか)は他者の課題と完全に切り分けて考えることが、対人関係を楽にする肝ということですね。

  • 「自分」の課題に「他人」が割り込もうとしてきたときは、はっきり「No」と言う。
  • これは「他人」が「自分」の自由を奪おうとする行為。
  • 自由を行使した結果、多少ギクシャクすることもあるかも知れないが、その結果壊れてしまう程度の関係であれば、むしろ壊してしまってよい。大事なのは、「自分」の自由を尊重すること。「他人」から嫌われる可能性を恐れることなく前に進んでいこう。

ゴールは「共同体感覚」

ここまでの流れをおさらいすると、まず”対人関係の悩み”を「人生のタスク」(どういった関係の人との間の悩みなのか)を分類し、その悩みの課題を「課題の分離」で自分の課題と他人の課題に分離する、という流れでした。

そして、アドラー心理学の”対人関係の悩み”解決のためのゴールは「共同体感覚を持つ」ことだと言います。 「共同体感覚」とは「他者を仲間とみなし、そこに居場所を感じられること」です。

共同体とは

「共同体」の範囲は個人同士の関係から宇宙全体(生物・無生物問わない)、果ては無限大に広がるそうです。私のイメージは下図のような感じです。 f:id:mcngmc:20200610055200p:plain

人は誰しも、何らかの共同体に所属しています。それは「家庭」や「学校」「会社」だけでなく、「地域」や「国家」など目に見えない繋がりも含まれ、一度に複数の共同体に所属していると言えます。 この「複数の共同体に所属している」という点が大事なポイントです。

例えば自分や自分の子供がが学生で、「学校」に大きな所属感を感じて過ごしていたとします。 でも、その学校でいじめに遭うなどのトラブルに巻き込まれたとします。そうすると学校に所属感を得られなくなり、居場所を無くした結果、より小さな共同体である「家庭」に引きこもるようになってしまいます。

まずは所属する「学校」の共同体においてその問題の解決に取り組むことが大前提ですが、それが困難な場合は「より大きな共同体」に目を向けます。

例えば「学校」よりも大きな共同体である「地域」に目を向けると、学校は同じ地域の中に複数あったり、少し離れた別の地域にも存在するので、いっそ転校してしまうのも一つの手段です。壁は多いでしょうが、小さな共同体の中に閉じこもって若い頃の貴重な時間をふいにしてしまうよりはずっと良いと思います。

社会人も、今いる「会社」に所属感を得られなくなったらそこに固執するのを止め、別の「会社」に転職、あるいは起業すればよいのです。

「転校」や「転職」には大変大きな勇気が必要ですが、共同体に「居ずらさ」を強く感じたまま居座ることは自身の体と心を蝕み、確実に悪影響を及ぼします。だからと言って学校や仕事に行くのを止めて「小さな共同体」に閉じこもると世界が狭まってしまいます。

「より大きな共同体」に目を向けて何かしらの共同体に所属し、人や社会と接することが自分の世界を広げ、豊かな人生を送る礎となるのです。

共同体感覚を得るために必要な3つの要素

「共同体感覚」とは、”自己への執着(セルフインタレスト)”を、”他者への関心(ソーシャルインタレスト)”に切り替えることで持てるようになると言います。 それを成し得るためのポイントが「自己受容」「他者信頼」「他者貢献」の3つです。

自己受容

自己受容とは『ありのままの「私」を受け入れること。そして変えられるものについて変えていく「勇気」を持つこと』です。 人は誰しも「私」という器を捨てることも交換することもできません。しかし「私」という器をどう使うかは私自身が決めることができます。 例えばテストの成績が思ったより振るわなかったとき、自分を「ダメな奴」と責めて失意のまま身動きがとれなくなったり、「今回は運が悪かっただけ」と言い訳して見て見ぬふりをしたりすることがあると思います。そんな「私」を投げ出さずに真正面から受け止め、成績が悪くなった原因を分析・対処していくことが自己受容の精神です。

他者信頼

他者信頼とは『他者を無条件で信じること』です。 これはとても難しいことだと思います。仮に自分は無条件で相手を信じ切ったとしても、それを裏切られる可能性だってあるのですから。 しかし、アドラー心理学ではこう考えます。

  • 他者が私を裏切るかどうかは「他者の課題」であり、自分にはどうすることもできない。
  • 反対に自分が他者に対して常に懐疑的な視線を送ると、それは必ず相手に察知されて一生誰とも深い関係を築くことはできない。
  • ならばいっそ、自分だけでも『相手のことを無条件で信じてみる』。
  • もし裏切られたら、その時は思いっきり悲しんでいい。そうして気持ちを切り替えて、また前向きに他者信頼の関係を築いていく。
他者貢献

他者貢献とは『仲間である他者に対して何らかの働きかけをしていくこと、貢献しようとすること』になります。 最も分かりやすい他者貢献は「仕事」です。私たちは「会社」という共同体に「労働」によって他者貢献を行い、”自分は会社(共同体)の役に立っている”と実感し、貢献感を得るのです。 このように私たちは所属する共同体にとって「私」が有益であると感じた時に、自らの価値を実感できます。 そのため「私」を捨てて誰かに尽くすような自己犠牲の精神とは反対で、「私」の存在価値を実感するために貢献活動を行うというのがアドラー心理学の考え方です。 それって結局自分のためにやっていることなので、偽善的行為じゃないの?と思われるでしょうが、本書の中でこう書かれています。

他者を「敵」だと見なしたままおこなう貢献は、もしかすると偽善につながるのかもしれません。しかし、他者が「仲間」であるのなら、いかなる貢献も偽善にはならないはずです。

アドラー心理学の「行動を支える心理面の目標」の2つ目にもありました『人々は私の仲間である、と言う意識』を持った上で、他者(仲間)に行う貢献はいかなるものであっても偽善にはならないという考え方です。逆に『敵』とみなすような相手に貢献しようとする行為は何らかの思惑あってのことなので、それは『偽善』とも言えるということです。

アドラー心理学の「目標」と「共同体感覚」の関係

ここまで”共同体感覚”を得るためのに必要な「自己受容」「他者信頼」「他者貢献」の3つの要素について述べましたが、これら3つの要素は円環構造で結びついます。

  • ありのままの自分を受け入れる(自己受容)からこそ↓
  • 裏切りを恐れることなく「他者信頼」することができる。↓
  • そして、他者に無条件の信頼を寄せて、『人々は自分の仲間』だと思えているからこそ「他者貢献」することができる。↓
  • さらに、他者に貢献しているからこそ『私は誰かの役になっている』と思えるようになり、より「ありのままの自分」を受け入れることができるようになる。(自己受容)↑↑↑

そしてここで、アドラー心理学が掲げる「目標」を思い出してください。

  • 行動面の目標
    1. 自立する事
    2. 社会と調和して暮らすこと
  • この行動を支える心理面の目標
    1. 私には能力がある、と言う意識
    2. 人々は私の仲間である、と言う意識

1は「自己受容」につながる目標です。
2は「他者信頼」、「他者貢献」に繋がる目標です。
つまり、アドラー心理学の”目標”とは「共同体感覚を持つこと」に他ならないのです。

すべては「貢献感」のために

アドラー心理学の「幸福」とは

アドラー心理学では、人間にとって一番の不幸は『自分を好きになれないこと』だと言います。 自分を好きになるにはどうすればよいのか?アドラーの回答は「他者貢献をせよ」でした。 「他者貢献」とは前述の通り「共同体に対して何らかの働きかけをし、貢献しようとすること」であり、人は「自分が共同体の役に立っている」と感じた時に、自身の価値を実感できるのです。 つまりは「貢献感」を得ることで自分を好きになることができ、それが幸福に繋がる。 アドラー心理学における「幸福」とは「貢献感」なのです。

しかも、目に見える形の貢献でなくても「私は誰かの役に立っている」という主観的な感覚でも良いと言うのです。なぜなら、自分の行為が役に立っているかどうかを決めるのは『他者の課題』であり、自分の行為に対する他者の真の評価は分かり得ないからです。 他者の評価はこの際バッサリ切り捨てて、自分の中で「貢献できた」と感じることができればいいなんて、とても大胆な解釈ですが自分はとても共感しました。

自己実現による幸福との違い

「幸福」とは即ち「貢献感」であるという説ですが、「いやいや『何か大きな目標を達成したときこそが真の幸福』なのでは?」と当然思いますよね。 そこで、「目標」を「登山」に例えてみます。そうすると「登頂=目標達成」であり、それによって幸福を得られ、自分の人生の中でも一区切りがつき、新たな人生のスタートを切ることができます。 このような思考において登山中は「人生の途上」であり、もし不慮の事故や病気で登頂が叶わなかった場合、人生は途上のまま中断される、ということになります。 これを本書では、古代ギリシアアリストテレスの哲学における「キネーシス」的な考え方と呼んでいます。キネーシスとは「始点と終点があり、始点から終点までの運動はできるだけ効率的で速やかに達成できることが望ましい」とする考え方だそうです。

このようなキネーシス的考えで、人生に始点~終点(目標達成)の『線』を結ぶのではなく、人生とは『点の連続』と考えようというのが本書の主張です。

人生とは『点の連続(連続する刹那)』であり、呼吸をしている『今この瞬間』が「大切な人生の一瞬」なのです。その一瞬一瞬を真剣に生きた結果、目標が達成されるのです。これをアリストテレスの哲学では「エネルゲイア」といい、『今なしつつある動きが、そのまま成してしまったという動き』を意味します。「登山」で言うと、とにかく登頂することが目的で、手段としてヘリコプターを使うことも厭わないとするのがキネーシス、「登山をしている/した」こと自体に重きを置くのがエネルゲイア的思想です。

本書ではこのエネルゲイア的な生き方を「ダンスをするように生きる」と表現しています。

  • 人生とは、今この瞬間をくるくるとダンスするように生きる、連続する刹那。
  • ふと周りを見渡した時に「こんなところまで来ていたのか」と気づかされる。
  • ヴァイオリンというダンスを踊ってきた人は、そのままプロになっていく人もいるだろう。別の場所に行きつくこともあるだろう。
  • でも、いずれの「生」も「途上」で終わったわけではない。
  • ダンスを踊っている、今ここが充実していればそれでいい。
  • 踊ることそれ自体が目的であって、ダンスによってどこかに到達しようとは誰も思わない。
  • 踊った結果としてどこかに到達することはある。踊っているのだから、その場にとどまることはない。しかし「目的地」は存在しない。

よって、このエネルゲイア的な「ダンスする生き方」においては、目標や計画を立てることに意味はないとしています。(「人生」の大いなる目標の事を指していて、小さな目標は有用であると自分は解釈しています。) なまじ詳細な目標や計画を立てると、そこで満足して終わってしまうことも多いものです。それはこの先の未来がぼんやり見えたことによる満足感や安堵であったり、あるいは「やっぱり無理だ」と諦めてしまうからです。

その「ぼんやり見えた未来」には何の意味もありません。本書の言葉を借りると、そんな物より「舞台俳優が浴びるような目の前の客席すら見えないくらいの強烈なスポットライト」を浴びることです。そうすると、目の前にぼんやり見えていた(気がする)未来や過去など全く見えなくなります。人生とはそれが当たり前なのです。過去にどんなことがあったのか、この先の未来がどうなるのかなど「今ここ」で考える問題では全くなく、大切なのは「今ここ」にスポットライトを当てる、つまり今できることを「真剣に」かつ「丁寧に」やっていくことなのです。ここで何を「真剣に」かつ「丁寧に」やっていくかは私たちの自由です。 と言われても、何をすればよいのか迷うこともあるでしょう。そんな時、道標となるのが”他者貢献”である・・・とするのが、本書の主張であり結論です。

とても熱いものを感じました。簡単に例えるなら「病気で苦しむ人を助ける医者になりたい(他社貢献)」ので、医大に入るため日々「真剣に」勉強に取り組む・・・といった姿勢でしょうか。

自分の悩みにどう向き合っていくか

ここまで「嫌われる勇気」のエッセンスを私なりに整理してきました。最後はこれを踏まえて、冒頭に述べた私の悩みについてどう向き合っていくかを、以下のようなフレームワークで感がて行きたいと思います。

項目 内容
タスクの分類 その悩みがどの”人生のタスク”に該当するかを分類する。
課題の分離 悩みに対する課題を洗い出し、それを「私の課題」と「他者の課題」に分類する。
自己受容 私の課題とすべき点、不十分な点を見出し、素直に認める。
他者信頼 解決策を実行するにあたり「他者」に関連する気になることを挙げ、その上で他者を信頼する。
他者貢献 悩みの解決によって他者に貢献できることを挙げる。
ToDo 悩みの解決のためにこれからする行動。

1. 物覚えが悪い

「覚える」には「インプット」よりも「アウトプット」が重要です。アウトプットする先は大抵「人」になります。私は人に話す、教えるといったことが正直苦手です。口下手で上手に話せないので、そんな自分を「恥ずかしい」と思ってしまうのです。

どのタスク?
  • 仕事、交友
課題の分離

【課題】
  ①口下手で人に話したり教えたりすることが苦手
  ②相手に批判されたり蔑まれたりするのが怖い
【私の課題】
  ①
【他者の課題】
  ②

自己受容
  • 上手に話せない「私」のことを、私自身が受け入れる。
他者信頼
  • 周囲の他者は、上手に話せない私のことを蔑んだりはしないと信じる。
  • 例え批判されたとしても、それは「建設的な批判」であって、私を貶めたりするためではない、と信じる。
他者貢献(ゴール:幸福)
  • 物覚えがよくなることで仕事等様々な場面で良いパフォーマンスを発揮でき、周囲の人に貢献できる度合いが高まる。(仕事や、様々なコミュニティに対しての貢献)
ToDo
  • 「口下手」なことは気にしない。
  • まずは積極的に人に「話す」「書く」「教える」。
  • そういったシチュエーションを意識して作るよう心掛ける。

2. やりたいことをやる時間がない

仕事や育児や家事で自分の時間がとれないという悩みでした。

どのタスク?
  • 仕事、愛
課題の分離

【課題】
  ①仕事が朝早く、夜遅い
  ②子供が家にいて起きている間は育児に集中する必要がある
  ③共働きのため、家事を分担してやる必要がある
【私の課題】
  ①、②、③
【他者の課題】
  なし

自己受容
  • 子供と向き合える「育児」の時間は絶対に必要。
  • 仕事も家事も必要なこと。
  • よって、これらの時間を削るより、朝早起きして自由な時間を作ることにする。
他者信頼
  • 私が早起きしたとしても、誰にもそれを疎ましく思うことはないだろう。
他者貢献(ゴール:幸福)
  • やりたいことができてストレス緩和。(自分へ貢献)
  • その状態で育児や家事、仕事に臨めることは、良いパフォーマンスに繋がる。(仕事のコミュニティ、家族への貢献)
ToDo
  • 夜は早めに寝て朝4時に起きる。
  • 家族が起きてくるまでの時間を自分の時間として活用する。

3. 集中力がない

自分の能力に対する悩みです。

どのタスク?
  • 仕事、交友、愛
課題の分離

【課題】
  ①集中したい物事とは別のことに気を取られてしまう
  ②集中して取り組んでいる最中に声をかけられたりする
  ③時間を決めずにダラダラとやってしまう
【私の課題】
  ①、③
【他者の課題】
  ②

自己受容
  • 自分はすぐに別のことに気を取られたりがちである。
  • 自分は作業をダラダラと取り組んでしまう所がある。
他者信頼
  • 他者は悪意を持って集中を阻害しようとしているわけではない。(しょうがないと受け止める寛容さを持とう)
他者貢献(ゴール:幸福)
  • 集中することで、仕事や家事をより短時間でこなせて、家族と過ごす時間も増える。(仕事・家族のコミュニティに貢献)
  • 達成感から、幸福感を得られる。(自分への貢献)
  • 集中、習慣化によりこれまでより短時間で仕事や家事がこなせるようになる。(仕事・家族のコミュニティに貢献)
ToDo
  • 作業を15~30分に区切り、都度短い休憩を挟む。
  • 作業の際は姿勢を正す。
  • 作業には期限を設ける
  • 以上のことができたか、モニタリングする(セルフモニタリング)

4. 仕事で苦手なお客様がいる

過去の仕事のプロジェクトのお客様ですが、私は望まれたレベルの仕事ができずに迷惑をかけて怒らせてしまい、最後にはプロジェクトを外されました。今でも同じフロアで共に働いているのですが、それ以降は顔を見るのも廊下ですれ違うことも気まずく委縮するようになってしまいました。

どのタスク?
  • 仕事
課題の分離

【課題】
  ①仕事が要求レベルに達せず、お客様に迷惑をかけたこと
  ②それが原因で、私がお客さまに苦手意識を持っていること
  ③お客様が私を嫌うこと
【私の課題】
  ①、②
【他者の課題】
  ③

自己受容
  • 自分の仕事の出来の悪さを認めて反省し、次に生かすこと。
  • お客様に苦手意識を持つことは仕方ないと受け入れる。
  • この失敗でそのお客様との関係は今後一切ないだろう。いまだ顔を合わせる機会があるのは正直しんどいが、お客様が私を嫌うことを私はどうしようもできないので、例え無視されようが、他のお客様同様に接することを心掛ける。
他者信頼
  • この反省を生かして別のプロジェクトで成果を出せばきっと職場のメンバーは認めてくれるだろう。
他者貢献(ゴール:幸福)
  • 上記の通り、このプロジェクトの反省を次の成果につなげることで会社に貢献できる。(仕事のコミュニティに貢献)
ToDo
  • プロジェクトの反省点と、どうすれば失敗しなかったかを整理し、実践する。
  • 今後苦手なお客様と顔を合わせても、「嫌われる(嫌われている)勇気」を胸に無難に接する。

まとめ

以上のように自分の悩みに対峙することで、自分の中に解決の光を見ることができました。 このことを踏まえて日々「今この瞬間を真剣に生きる」ことを心掛けようと思います。

私の心の靄を払ってくれたこの本書とアドラー心理学に、心からお礼を申し上げたいです。

あとがき

共同体について記載しているとき、ふと以下のようなことが頭をよぎりました。

自分には1歳になる子供がいます。 いずれ小学校に上がっていくでしょう。その時、もし子供がいじめられたら私は子供に対して、学校に対して、いじめの当事者、またはその親に対してどう対処したらよいのだろう。 「子供がいじめられている」という悩みにどう向き合うべきなのだろう、と。

でも、「いじめ」は子供自身の課題ですよね。そこに親が踏み込むことはアドラー心理学の「課題の分離」に反します。 しかし、相手の悩みや問題について相手から協力を求められ、それを引き受けたとしたらそれは「共同の課題」という扱いになるそうです。

kemuri7.com

予防処置ではありませんが、少し考えてみたいと思います。

どのタスク?
  • 仕事、交友
いじめる側の目的
  • (いじめ被害者に)勝ちたい、優位な立場になりたい
  • 以前に(いじめ被害者に)いじめられたからその仕返し
  • むかつくから
  • ストレス発散
  • etc

パッと浮かんだだけで以上のような目的が挙げられると思います(当然他にもあると思います)。これらの目的の根底は、いじめる側の何らかのSOSの場合も考えられますし、根っからのいじめっ子が面白おかしくやっているだけの場合もありますし、その見極めが必要です。

課題の分離

いじめの原因(いじめる側の目的)が明確でないと真の意味での課題の分離はできないと判断しました。

ただ、一般論で述べると以下の2点が挙げられると思います。
①普通の生活、交友関係を築いて平穏に暮らすのは自分の課題
②私をいじめるのは他者の課題

他者の課題に自分は踏み込まない、自分の課題に他者を踏み込ませないという課題の分離の原理原則に従うと、話し合って「今後お互い干渉はしないことにする」というのが結論かと思いました。(もちろん、話し合ってお互い仲良くやり直せることが一番ですが・・・)

そこにいきつくために、まず親がすることは

  • まず、子供に「自分は味方だ」と伝える
  • 告白した勇気をたたえ、これまでの頑張りを認める
  • 先生を信じて、学校に相談する(いきなり学校や先生を「敵」扱いして詰め寄らない)

それでも解決に至らない場合は、外の共同体に目を向けて「転校」を視野にいれるべきでしょうか。

ただ、子供がその学校を気に入っていた場合どうすべきでしょう。その場合できることは、いじめ加害者とは別のクラスにしてもらうくらいでしょうか。

自己受容
  • 子はいじめられていることを受け入れ、素直に親に告白・相談する。
  • 親は、自分の子供がいじめられていたことに気づけなかったことを反省する。だが過度に自分を戒め、狼狽したりしない。冷静になり、子供や学校への対応に当たる。
他者信頼
  • 「子供は親を」「親は子を」「親子は先生を」信じ、問題に対処すること。また、いじめ加害者も「きっといじめを止めてくれる」と先ずは信じることも必要。
他者貢献(ゴール:幸福)
  • 理想は、いじめを辞めてもらい以前の関係に修復する、もしくは今後互いに干渉しないことを約束する。
  • これによって「親は子供に対して貢献」「子は親に対して心配をかけさせなくするという意味で貢献」し、互いに幸福となれる。

現状、自分にはこれ以上想像が及ばず浅い考察となってしまいました。今後もこの問題について、アドラー心理学に基づく解決方法を考えていきたいと思います。

参考にさせていただいたサイト mom-question.com