【書評】Think clearly 最新の学術研究から導いた、よりよい人生を送るための思考法

なぜこの本を手に取ったか

AmazonのAudibleで評価が高く、概要から興味をそそられたので拝聴してみました。

著者について

ロルフ・ドベリ

作家、実業家。

1966年、スイス生まれ。スイス、ザンクトガレン大学卒業。スイス航空会社の子会社数社にて最高財務責任者最高経営責任者を歴任後、ビジネス書籍の要約を提供する世界最大規模のオンライン・ライブラリー「getAbstract」を設立。35歳から執筆活動をはじめ、ドイツ、スイスなどのさまざまな新聞、雑誌にてコラムを連載。著書『なぜ、間違えたのか?――誰もがハマる52の思考の落とし穴』(サンマーク出版)はドイツ『シュピーゲル』ベストセラーランキングで1位にランクインし、大きな話題となった。本書はドイツで25万部突破のベストセラーで、世界29か国で翻訳されている。著者累計売上部数は250万部を超える。小説家、パイロットでもある。スイス、ベルン在住。

引用:https://www.sunmark.co.jp/author.php?pt=1&csid=%E3%83%AD%E3%83%AB%E3%83%95%E3%83%BB%E3%83%89%E3%83%99%E3%83%AA

よりよい人生を送るための「思考法」

著書では52の思考の道具を提案してくれていますが、その中でも自分が特に感銘を受けた、実践したいと感じた道具について概要をご紹介します。

考えるより、行動しよう

思考の飽和点に達する前に行動に移す

予測不能なリスクも含めて綿密な計画を練ろうとしている状態のことを「思考の飽和状態」と言います。このような状態に陥いる前に、行動に移すことの大切さを説いています。トヨタでも「6割良いと思えば動け」(トヨタ 仕事の基本大全 p.344 KADOKAWA/中経出版)と指導されています。何事も思考の中でできること、得られることは限られているのです。

何でも柔軟に修正しよう

人は「完璧な計画」を求める傾向がありますが、計画通りに物事が進むことなど100%あり得ません。ある程度の目途が立った段階で計画を実行に移し、定期的に見直し、修正していくことが正しいやり方であると説いています。

戦略的に頑固になろう

決断には一定のルールを設け、そのルールに従って即断即決することがよいそうです。例えば「仕事Aは引き受けるが仕事Bは一切引き受けない」など。その場その場で柔軟に対応し判断していると「判断疲れ」に陥り、最悪の選択をしてしまう可能性もあります。「例外」を作らず、100%ルールに従うのがコツです。

好ましくな現実こそ受け入れよう

「失敗」は受け入れ難いものですが、勇気をもってそれを素直に受け入れ、失敗の原因を突き詰めることを習慣化することで自身の人生のかけがえのない財産となります。

自分の感情に従うのはやめよう

一時の喜怒哀楽の感情は「鳥」のようなもので、自分の頭の中の広い空間を一瞬で飛び去って行きます。その「鳥」は縦横無尽に様々なスピードで飛び交うため、捕まえることはおろか予測すらできません。そんな「鳥」にいちいち向き合うのは止め、自由に羽ばたかせておくことが精神的に肝要です。

ものごとを全体的にとらえよう

私たちは「年収が高ければ幸せになれる」などと、特定の要素(この場合お金)を過大評価しがちです。でも実際にはお金持ちの人だって悩みは尽きないものです。これは「フォーカシング・イリュージョン」と呼ばれる錯覚で、何事も特定の要素に捕らわれすぎないよう、一歩引いて俯瞰することの重要性を説いています。

買い物は控えめにしよう

高級なモノを買うとその瞬間はフォーカシング・イリュージョンの効果で大きな満足度を得られますが、暫くするとその効果は薄れ、日常の風景と化するものです。そんな「モノ」よりも記憶に残り続ける「経験」にこそお金をかけるべきです。

SNSの評価から離れよう

何においても「自分の判断基準」というものをしっかり持ち、それに従って評価を下すよう心がけます。SNSや周囲の評価ばかり気にしていては、自分は何に対して幸せを感じているのか分からなくなり、ストレスの元となってしまうからです。SNSや他者からの「いいね」(逆もしかり)は穏やかに受け流すことがよい人生につながります。

現在を楽しもう

過去の(美化された)思い出を思い返している時、人は幸福を感じることが研究で分かっていますが、その思い返している時間を素晴らしい何かを経験する時間に変えた方がより豊かな人生につながります。

精神的な砦を持とう

不運や状況の悪化に対する精神的な対処法など、私たちの中に持っている「思考」あるいは「思考の道具」は誰にも取り上げらることはありません。考え方の選択は人間に残された最後の自由であり、砦です。まずは自分の中に確固たる砦(思考、知識、経験)を築き、それを他者から侵されないよう屈強なものにしましょう。

解決よりも、予防をしよう

世間では「問題を解決した人」がもてはやされ「問題を未然に防いだ人」は見向きもされません。しかしアインシュタインも「賢い人は問題を解決する。賢明な人は問題を回避する。」と述べているように、後者の方が賢明なのです。予防措置を軽視せず、常々、これから起こりうるリスクを想像し、対処法を考えておくことが重要です。

注意の向け方を考えよう

投資家ウォーレーン・バフェットは成功の要因を「フォーカス(注意)」と答えました。一瞬一瞬どこに注意を向けるか意識することで人生は豊かになります。しかし私達の身の回りにはテレビ、SNS、広告など、注意を削ぐ媒体で溢れており、これらは絶えず大量の「情報」を送り付け、私たちの「注意」だけでなく「時間」「お金」まで奪っていきます。情報は、取り込み方や付き合い方を厳格に、慎重に判断すべきです。

自分の頭で考えよう

意見を求められた際、人は周囲のコミュニティの知識に頼り、コミュニティの意見をさも自分の意見のように述べる傾向があるそうです。私たちの「意見」とは「洋服」と同じで、ただ流行りものを身にまとっているだけなのです。もっと自分で調べ、考え、咀嚼し、たどり着いた内容を自分の言葉で述べるべきです。

専門分野を持とう

石器時代の名残で、人は「多彩な能力」を求める傾向にありますが、職の専門化が進んだ現代においてそれは矛盾した考えです。何かに特化した独自の専門性を身につけて「その分野の第一人者」になり、それを武器に商売やサービスを始めれば競合のいない世界で儲けは独り占めとなります。新しい専門分野を見出すことは容易なことではないですが、既に仕事に就いているならまずはその仕事に独自の付加価値を加えて「自分にしかできないサービス」を構築することが肝要かと思いました。

自分を重要視しすぎないようにしよう

人間には遺伝的に「自尊心」が備わっており、自分を重要視するほどその自尊心が過剰に働き、些細なことでそれを傷つけられたと感じてしまいます。自分を重要視しすぎるのを止める、つまり「自分の重要度を殊更に発信する行為」と「自分の重要度を過敏にキャッチする行為」を止めれば、その分の労力は減り、別のことに集中することができます。つまり、重要視しすぎないことで人生が豊かになるのです。

内なる成功を目指そう

バスケットボールコーチ、ジョン・ウッデンは「成功とは、最高の自分になるために全力を尽くした後にみられる心の平穏である」と、成功を「心の状態」として定義しました。これを「内なる成功」とよび、反対は金や物の報酬による「外的な成功」です。内なる成功を目指し、毎日を「人生の最高傑作」にできるよう努力を積み重ねることが重要です。1日の終わりに次のような振り返りを行うことが効果的です。

  • 昨日に比べて自分は何ができるようになったか
  • 何を変えられたか
  • 問題はなかったか、何が原因でどうすれば解決できるか
  • etc…

最後に

本書において特に「なるほどな」と感心した16の思考の道具をご紹介しました。専門分野の話なんかは結構チャレンジャブルですね。自分のレースを見つけられるように常にアンテナを巡らせておきたいです。

あと、本書の文面は著者のクールな知見とジョークが小気味よく織り交ぜられ、とても読みやすく(聞きやすく)頭にスッと入ってきました。これは安原実津氏の翻訳と、けんぞう氏のナレーションに依る所も大きいと感じました。

【書評】1兆ドルコーチ

なぜこの本を手に取ったか

アップル共同創業者のスティーブ・ジョブズGoogle共同創業者ラリー・ペイジ、アマゾンのジェフ・ペゾス。今や世界をテクノロジーで牛耳る(と言うと言葉が悪いですが)GAFA錚々たる面々ですが、なんと彼らには「共通のコーチ」がいたというのです。その名はビル・キャンベル。彼はどんな人物で、どのようにしてこの錚々たる面々を支え、導いてきたのか気になり、手に取りました。

ビル・キャンベルの経歴

  1. 元々はアメフト選手でした。選手としては小柄な体格であったにも関わらず、高校のフットボール部の最優秀選手に選ばれたこともあります。
  2. コロンビア大学で部の主将に選ばれ、卒業後同チームの「コーチ」となりました。
  3. しかし結果を出せませんでした。原因はビルの強い「思いやりの精神」が災いしたと言われています。彼は選手を大切にするあまり、スター選手も(努力している)一般選手も分け隔てなく試合に出場させ、また、選手に学業を疎かにしないよう指導しました。それは勝利よりも彼らの今後の人生を思ってのことでしたが、スポーツの世界でその「思いやり」は逆効果となってしまいました。
  4. 40代になって友人の勧めでビジネスの世界に踏みこみ、そこで頭角を現しました。あっという間にアップルの幹部にまで抜擢され、やがてアップルの子会社クラリスのCEOに上り詰めました。
  5. クラリスを離れると、次はインテュイットのCEOとして迎えられました。この時のインテュイット創業者スコット・クックにビルのリーダーシップや人材育成の素養を見出され、フィールドは違うものの再び「コーチ業」に戻ってきました。その後、アップル時代から親交のあったスティーブ・ジョブズやグーグル幹部など、シリコンバレー中のCEOをコーチしてきました。

アメフトコーチからビジネスの世界に転身し、1兆ドルの価値を生む名コーチとなったわけです。次は彼の「コーチの極意」をまとめてみます。

ビル・キャンベル コーチの極意

マネジメント

チームを「コミュニティ」にし、高いパフォーマンスを発揮させる

  • 企業の成功に必要なことの1つは「チームが『コミュニティ』として機能すること」です。
  • 「コミュニティ」とは、個々の利害関係や意見の違いは脇に置き、会社のためになることを個人・集団として取り組むことができる環境のことをいいます。
  • 人は職場のコミュニティの一員であることを感じると、仕事に対する意欲が増すことが研究で判明しています。
  • 一見ハイパフォーマンスなチームが、実は社内の激しい内部競争の上に成り立っていることが間々あります。
  • しかし、このような環境では社員は強烈な緊張に晒され、パフォーマンスに悪影響を及ぼす結果となってしまいます。
  • ビルはアメフトコーチで培った「チームメイト間の緊張を見抜く目」と「緊張を解決する手腕」を持って社内の内部競争における緊張を素早く察知、緩和し、共通のビジョンを持つ「コミュニティ」になるようコーチしました。

リーダーの条件

リーダーシップは人材管理を突き詰めることで生まれるとビルは考え、実践していました。その目的はあくまで企業として結果を出すことではありますが、部下を支援し、信頼して仕事をさせることで成長を促すといったとても人間味にあふれる手法でした。

  • 「支援」
    • 彼らが成功するために必要なツールや情報、トレーニング、コーチングを提供すること。
  • 「敬意」
    • 一人ひとりのキャリア目標を理解し、それを達成できる手助けをすること。
  • 「信頼」
    • 彼らに自由に仕事を取り組ませ、決定を下させること。
    • 彼らが必ず成功できることを信じること。

また、ビルはこんなことも言っていたそうです。

どうやって部下をやる気にさせ、与えられた環境で成功させるか?独裁者になっても仕方ない。ああしろこうしろと指図せず、同じ部屋で一緒に過ごして、自分は大事にされていると部下に実感させる。部下の言うことに耳を傾け、注意を払う。それが最高のマネージャーのする事だ。

君が優れたマネージャーなら、部下が君をリーダーにしてくれる。リーダーを作るのは君じゃない、部下なのだ。

ミーティング

ミーティングは「旅の報告」からはじめる

ビルは、ミーティングの前に必ず「旅の報告」などの雑談から始めたと言います。その目的は2つあり、一つはチームメンバーが「家庭や、仕事以外の生活を持つ人間」としてお互いをより知りあえるようにすること。二つ目は全員が特定の職務の専門家や責任者としてだけでなく、一人の人間として最初から楽しんでミーティングに参加できるようにすることです。これは学術的には「社会情動的コミュニケーション」と言うそうで、チームメンバーの連帯感を生み出し高めるためる効果があります。

  • ミーティングの前に軽い雑談を行い、メンバーのことを知りつつ場を和ませ、リラックスした状態でミーテイングが始められるようにする。

議論すべき「トップ5」を挙げる

ビルは「1 on 1ミーティング」をよく行いました。その際「君のトップ5はなんだ」とよく聞いたそうです。これは自分の時間と労力をどう優先付けしているかを知るための方法です。ビルもトップ5を作っていたそうですがそれはあえて伏せて、話の主導権は相手に握らせつつ自分のトップ5について触れる手法をとっていたそうです。実践するなら、各々トップ5をホワイトボードに書き出して議論するのがよいそうです。何が二人の間で共通しているかも一目瞭然となります。

  • 1 on 1ミーティングでは、お互いの「トップ5」を確認する。

コンセンサス(合意)より「最適解」を求める

何かを決定するとき、グループのトップがすべての決定を下しているようでは、部下はマネージャーに自分のアイデアを売り込むことに終始してしまいます。そうした状況では本来求めるべき「最適解」よりもロビイングに長けた人の的外れなアイデアが採用され、グループ、ひいてはその企業を悪い方向に導いてしまう危険があります。事実、コンセンサスを目指すと「集団浅慮(グループシンク)」に陥り、意思決定の質が低下しがちなことが研究で明らかにされています。 ビルは、コンセンサスより最適解を重視していました。最適解を得るにはすべての意見を俎上に載せ、グループ全体で話し合うのが一番です。全員に忌憚のない意見を促すために、ビルはミーティング前にメンバー一人一人と膝を交えて彼らの胸の内を知ろうとしました。そのためビルは様々な視点から問題を捉えることができ、さらにメンバーはビルと会話することで自分の意見が整理され、準備ができた状態でミーティングに臨むことができたそうです。

  • コンセンサスより最適解を求める
  • 最適解を得るにはグループ全体でその議題について話し合う必要がある
  • ミーティングの前に1人1人の意見を聞いてみる

マネージャーは「決着」をつけろ

それでも最適解が生まれない場合、マネージャーは決定を促すか、自ら決定を下す必要があります。

「この方針で行くぞ。下らん議論はおしまいだ。以上。」と宣言するんだ。

しっかり議論すれば10回中8回は部下が自力で最適解を見つけるので、残りの2回について決断を下す必要があります。決断を下す際、最も重要な判断材料は「第一原理(ファースト・プリンシプル)」です。 第一原理とは、どんな会社にもある「社是」と同意と考えてよいでしょう。すべての社員が第一原理を受け入れている前提となるため、この原理に則した判断は誰も反論できません。第一原理は会社に限らず、どんな状況でも存在します。そのため事前にプロダクトやプロジェクトを支える不変の真理を明確にしておくことが賢明でしょう。

人材

信頼関係を築く

信頼がビジネス成功の基盤であることは言わずもがなですが、ビルはこの信頼を築くエキスパートだったそうです。ビルが思う「信頼」とは以下の条件を満たすことでした。

  • 約束を守ること
    • ビルに「何かをする」と言ったら、それは必ず守らなければならない。それはビルも同様で、彼はいつでも約束を守ったそうです。
  • 誠意
    • お互いに対し、またお互いの家族や友人、チームや会社に対し誠意を尽くすことを徹底します。スティーブ・ジョブズが1985年アップルを追放されたとき、ビルは彼を会社にとどめようとした数少ない幹部の一人でした。スティーブはビルが示した誠意を片時も忘れず、以降二人は固い友情と仕事上の関係を築きました。
  • 素直さ
    • ビルは常に率直で、相手にもそうあることを期待しました。
  • 思慮深さ
    • グーグル経営陣の一人が重病を患った際、その事をビルにだけ伝えたそうです。ビルはそれを誰にも口外せず、他のメンバーが知ったのはその重病が完治した後だったそうです。

信頼関係の構築が、組織の意思決定にも大きく影響することがコーネル大学の論文でも明らかとなっています。例えばチーム内で何か議論が発生したとします。この時生じる「課題葛藤」(決定に関する意見の不一致)と「関係葛藤」(感情の行き違い)の相関関係に”信頼”が大きく関わってくると言います。「課題葛藤」は本来健全なのものであり、最善の決定を導くために必要なのですが、「課題葛藤」が高まるとまずい意思決定や士気低下を招きかねない「関係葛藤」も高まる傾向にあると言います。ただ、ちゃんと信頼関係が築けていればこの「関係葛藤」を少なくすることができ、適切な意思決定を下しやすくなると言うことです。また、コーネル大学の研究では「心理的安定性が高いチーム」ほど良いとしています。「心理的安定性」とは「チームメンバーが安心して対人リスクを取れるという共通認識を持っている状態。ありのままでいることに心地よさを感じられるチームの風土のこと」を指すそうです。こういったチームを作る出発点が「信頼」であり、ビルはこういった関係を素早く構築したそうです。

正直で謙虚な人材を見極める

ビルは、一緒に働く人を「謙虚さ」で選んでいました。リーダーシップとは自分だけの問題ではなく、会社とチームという自分よりも大きなものに「献身」することだからです。

ビルが定義する「リーダーにふさわしい三箇条」

  1. 正直であること。
  2. 謙虚であること。会社とチームと言う、自分より大きなものに献身すること。
  3. 好奇心旺盛で、新しいことを学ぶ意欲があること。

コーチン

コーチとは

コーチは、教える相手がどれだけ自己認識できているか知る必要があります。相手の強み、弱みを知るだけでなく、相手が自身の強みと弱みをどれだけ認識しているかを知り、彼らにそれを自覚させ、見えていなかった欠点に気づかせるのがコーチの仕事です。人は自分の欠点を話したりません。そのためビルは、コーチを受ける人に「正直さ」と「謙虚さ」、「粘り強く努力する姿勢」を求めました。

手法

ビルのコーチング手法の中でも「ヒアリング」と「フィードバック」の手法を簡単にまとめます。


  • 話を聞くときはいつも、相手に細心の注意を払い、じっくり耳を傾けた。
  • ビルはいつも大量の質問を投げつけた。これは「アクティブリスニング」と呼ばれる手法で、どんどん質問を投げかけることで発見や洞察を促し、本当の問題に気付かせることができる。
  • 彼はいつも正直で偽りのないフィードバックを行った。彼の性格もあるが、いつも100%正直で(ありのままを話した)、率直だった(厳しいことを臆せず伝えた)。
  • 多くのリーダーはフィードバックを人事考課まで待つが、ビルは決定的瞬間を捉えて都度適切なフィードバックを行っていた。
  • 批判的なフィードバックは必ず人目のないところで行うように気を配った。

仕事力

すべきことを指図しない

ビルはコーチングに際してじっくり相手の話を聞き、フィードバックを行いはしましたが、具体的な指示はしませんでした。理由は以下のとおりです。

  • マネージャーは部下に頭ごなしに指図すべきでない。
  • 指図するよりも、なぜそれをやるべきなのか物語を語る。
  • そして部下が自力で最適解にたどり着くよう促す。

ペンシルバニア大学の教授はこのような姿勢を「人当たりの悪いギバー」と呼びました。相手に対して親身にはなりつつも高い目標と期待を設定してその挑戦を促し、応援する。そして誰もが聞きたくないけど聞く必要のある厳しいフィードバックを与える。これは会社だけでなく、教育に対しても同じことが言え、アドラー心理学の「勇気づけ」という考え方に通じる部分があります。

問題そのものよりチームに取り組む

ある時、Googleの幹部ミーティングである事業のコストが大幅に増加していることが議題となりました。幹部たちは一様に以下のような質問を投げかけます。

  • 状況はどうなっている?
  • 問題はなんだ?
  • 選択肢はあるか?

しかしビルはこの時一言「気にするな」と言ったそうです。ビルは問題が起こった時、目の前の問題そのものに向き合うのではなく、問題に対処するチーム、メンバーに焦点をあてていました。

  • 誰が問題にあたっているのか?
  • 適切なチームが適材適所に配置されているのか?
  • 彼らが成功するために必要なものはそろっているか?

ビルはこのように問い、チームを導き、チームに解決させるように取り組みました。

すべきことに集中する

ビルは困難な問題が生じたとき、常に冷静かつポジティブな姿勢で今すぐやるべきことに集中しました。これを「問題中心型対処法」と呼び、この手法が特に発揮されたのはスティーブ・ジョブズが復帰したころのApple時代。当時は非常に困難な問題がいくつも発生しましたが、ビルは冷静でポジティブな姿勢を保ちながら「何が起こったか、誰が悪いのか」ではなく「それについてどうするか」について集中しました。

これが実現できたのは、ビルが徹底的にポジティブであったからだと言われています。私も経験がありますが、プロジェクトで何か問題が発生するとネガティブな感情が蔓延しがちです。それをビルは持ち前のポジティビティでかき消していきました。上司がこのように振る舞ってくれると、部下としてはありがたいものです。

こうした「ポジティブなリーダーシップ」が問題解決を促すことが研究で判明しています。完全にビルのように振る舞うのは難しいかもしれませんが、職場で何か問題が起きた時は「常に冷静さを保ち、徹底してポジティブであること」「メンバーをほめ、肩を叩いて安心させる」「でも厳しい質問もし、建設的なフィードバックをする」これら3つをを心掛けたいですね。

人間力

小さな隙間を埋める

会議中(に限らず、日常会話においても)何気なく発した言葉やメールの文面が、自分の意図に反して相手に腹立たしい内容に感じ取られてしまい、関係がぎくしゃくする何てことは間間あるものです。 ビルは人々の間に生じるこうした「ピリピリムード」を常に注意深く観察することでいち早く察知し、すかさずフォローすることに長けていました。コーチが特に大きな助けとなるのはこういう時で、会議には出席しても「試合には出ない」コーチだからこそ持てる視点で、参加者の発言やボディーランゲージを観察し、雰囲気の変化を察知したそうです。

人に親切である

ビルはとても多忙でしたが、困って彼を頼ってきた人がいれば最優先でその人の手助けを行っていました。ビルは社内でも高い立場にいましたが、幹部からスタッフまで分け隔てなく話を聞き、人助けをしていたそうです。 彼が行っていたのは「5分間の親切」と呼ばれるもので、「親切をする側には5分もかからないような些細な行為でも、される側にとってはとても大きな意味のある行為」というものです。具体的には「率直な意見を言う」や「必要な人を紹介する」等と言った行為になります。

最後に

本書にはここでは紹介しきれないくらいの「極意」がまだまだありますが、自分が大切だなと思った項目に絞ってまとめました。

ここでは紹介していませんが、ビルはしゃがれ声で汚い言葉で「愛のある」罵倒をよく投げかけたそうです。でもその本意は、相手の事を心から思いやり、愛しているからこその行動だったそうです。このようにビルは、(意図してかどうかは分かりませんが)学術的にも理にかなった手法で部下や組織をマネージメント、コーチングしていましたが、そこに「相手に対する深い敬意と愛情」が加わっていたことが、一兆ドルの価値を生んだコーチングの一番の極意だったのではないかと思います。

ビルのようにすべての人に対してこのように接することは難しいので、まずは身近な存在(家族や職場の部下など)に対して「深い敬意と愛情」を意識しながら、ここで学んだコーチングの手法を実践しきたいです。

【書評】嫌われる勇気

嫌われる勇気

嫌われる勇気

はじめに

遅ればせながら、「嫌われる勇気」を拝読しました。

今回はAmazonの"audible"を使ったので「拝聴」が正しいですかね。 通勤の徒歩時間を活用のため始めました。

本書は「哲人」と「青年」の二人の登場人物の掛け合いだけで物語が展開されるのですが、セリフをそれぞれ『てらそま まさき』さん、『金野 潤』さんが演じていらっしゃいます。お二方とも演技が素晴らしく、二人の会話にどんどん引き込まれ、感情を揺さぶられました。

そういう側面でもaudibleは楽しめますので、多少高くても買う価値ありだなと思いました。

物語は悩み多き若者である「青年」が、”世界はシンプルで誰でも幸福になれる”と主張する哲学者「哲人」に論戦を挑みむため、哲人宅の扉を叩くところから始まります。

その後終始この二人の「対話」で話が展開されます。キーとなるのは「アドラー心理学」。 本書を読んで、アドラー心理学(の一端)を、私なりに整理したのが以下の図になります。

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嫌われる勇気 自分なりまとめ

この図をベースに私の解釈と、私の変化を述べていきたいと思います。

すべての悩みは、対人関係

アドラー心理学では『人の悩みに個人で完結するものはなく、全て他者の影が介在する』と謳っています。例えば自分の身長で悩んでいる人は「他者と比較して自身の身長が低い」と感じるから悩むのだと言うのです。極端な話ですが、もし世界に自分一人だけならこのような考えには至りません。

”他者と比べて自分は身長が低い”と言う「劣等感」について、アドラー心理学では「優越性の追求」と対を成す存在であるとしています。「優越性の追求」とは、”無力な状態から脱したい”という普遍的な欲求のことで、アドラー心理学で用いられる言葉です。例えば赤ちゃんは何もできない状態から生まれますが、そこから自分で手足を動かし、歩く、話す・・・と言った動作を日々体を動かしながら学び、一つ一つできるようになっていきます。つまり、無意識にもこの欲求は働いているわけです。

反対に優越性の追求による『理想の姿』と『現実のギャップ』に失望し、自分が劣っているかのように感じるのが「劣等感」です。 アドラー心理学では「優越性の追求」も「劣等感」も健全な成長の証であると言っています。 劣等感が強いコンプレックスにならない限り、人はこの劣等感をバネに努力し、成長することができるからです。

ここで一つ疑問が生じました。 先ほどの"低身長の悩み"が対人関係に由来しているのは理解できますが、それ以外の悩みはどうなるのでしょうか?パッと思いつく、自分の悩みを書き並べてみました。

  1. 物覚えが悪い
  2. やりたいことをやる時間がない
  3. 集中力がない
  4. 仕事で苦手なお客様がいる

1は自分の能力に関することです。学んだこと、ヒトやモノの名前をよく忘れてしまうのが悩みです。ここで「覚える」ことの自分の目的を思い返したところ「何らかの形でアウトプットする」ことでした。アウトプットする先は人になるため、対人関係に行きつきます。

2は仕事や育児で自分の時間がとれないことから来る悩みなので、これも対人関係です。

3は自分の能力の悩みです。「なぜ集中したいのか」を自己分析した結果、最終的には対人関係に行きつきました。

  • なぜ集中したいのか?
    • 集中して仕事に取り組んで定時退社し、家族と過ごしたい

4は、言わずもがな人間関係ですね。

結果的に、自分の悩みはすべて対人関係に帰着しました。もちろんそうならない悩みもあると思いますが、一先ず「アドラー心理学ではそう考える」という前提で理解してください。こちらの「IDEASITY」さんのブログに、その点が分かりやすくまとめられていますので、ぜひご参照ください。

ideasity.biz

人生のタスク

アドラー心理学では「人間の持つ悩みや問題は、すべて対人関係の問題」と考えます。 その上で以下の3つの「タスク」を設けて悩みや問題を分類し、それぞれに合ったアプローチをしていきます。

  1. 仕事のタスク
  2. 交友のタスク
  3. 愛のタスク
仕事のタスクとは
  • 職場や学校内での対人関係に対するタスクです。
  • どんな仕事でも、一人で完結できるものはありません。仕事の成果を目標に、他者と一致団結して協力し合うタスクです。
  • ”その仕事を辞めればそ立ち消える”ような「永続しない人間関係」の中でのタスクになります。そのため、後述する「交友」「愛」のタスクに比べて浅い関係での問題のため、解決へのアプローチも比較的容易ではあります。
交友のタスクとは
  • 友人やご近所付き合い等、「永続するが運命を共にはしない」対人関係に対するタスクです。
  • 仕事と違って強制力がない分、その人と関係を深めていくかどうかは自分の判断に委ねられ、仕事のタスクよりも難しく、勇気の試されるタスクです。
愛のタスクとは
  • 異性関係、家族関係など、永続し、運命をともにする人間関係に対するタスクです。深い人間関係の中で生じる問題は一層解決が難しいのですが、アドラーの弟子「R.ドライカース」の言葉が分かりやすかったので紹介します。

    パートナーがそれぞれもう一方のパートナーを十分に受け入れ、2人の間にお互いに感謝し合う気持ちが育つ時にだけ、愛のタスクの問題は解決する。『アドラー心理学の基礎』(R.ドライカース)

人生のタスクを支える「目標」

以上3つの「人生のタスク」は、人が生きていく中で直面せざるを得ない対人関係におけるタスクです。悩みや問題ができたら、それがどのタスクに該当するのかを見極め、解決策や対処法を導きだす必要があります。 人の悩みや問題は千差万別のため、万人に共通する対処法は存在しませんが、アドラー心理学では以下の「目標」を常に意識しながら人生のタスクに向き合うことを推奨しています。

  • 行動面の目標
    1. 自立する事
    2. 社会と調和して暮らすこと
  • この行動を支える心理面の目標
    1. 私には能力がある、と言う意識
    2. 人々は私の仲間である、と言う意識

問題解決のためにやるべき「課題の分離」

アドラー心理学では、あらゆるトラブルは対人関係における以下の2点によって引き起こされるとしています。

①自分が他人の課題に土足で踏み込む
②他人に自分の課題を土足で踏み込まれる

ここで言う「課題」とは、例えば”子供の宿題”をイメージしてください。 親が子供に「宿題やりなさい!」と促すシーンは良くある光景だと思います。 子供は自分のペースでやろうと思っていたのに、親からこのように言われるとつい反発してしまいます。

なぜ反発するかというと、それは子供にとって【他人に自分の課題を土足で踏み込まれた】ことになるからです。反対に親の行為は【自分が他人の課題に土足で踏み込む】ことそのもので、これにより子供の反発が誘発されます。上記①,②の因果関係が成り立つわけです。

また反発する真因として、多くの親は「あなたの為」と言って子供に言いきかせますが、実は”世間体を気にして"であったり、"子供への支配欲”であったり、親の何かしらの「目的」が裏に潜んでいます。(これをアドラー心理学では「目的論」と呼びます) 「あなたの為」ではなく「私の為」の行為であり、子供たちはそれを敏感に察知して反発するのだそうです。

認識すべきは、「他者は、自分の期待を満たす為に生きているのではない」ということです。 例え我が子であっても、子は親の期待を満たす為に生きているのではないということを、親は重々理解しておく必要があります。

このような対人関係のトラブルの元を絶つテクニックとして、アドラー心理学では「課題の分離」を推奨しています。その手法を以下の2つです。

  1. 自分の課題、他者の課題を分離・線引きする。
  2. 他者の課題には踏み込まない。また、自分の課題にも踏み込ませない。

たったこれだけを徹底することで、対人関係の悩みを一変することができるというのです。

他者の課題に踏み込まない

まず「他者の課題に踏み込まない」について考えます。 先ほどの「子供の宿題」の場合ですと、子供の宿題は言うまでもなく子供の課題です。なので親はそこに口出しは一切しない。自分でやり遂げるまで黙って見守ります。

じゃあ何もしなくてよいのかと言うとそうではありません。 本書にも登場しますが、イギリスのあることわざが「課題の分離」をとても分かりやすく表現しています。

You can take a horse to the water、but you can’t make him drink.
馬を水際まで連れていくことはできても、馬に水を飲ませることはできない。

「課題の分離」で言うと、”馬を水際まで連れていく”のは「私」の課題であり、”水を飲むかどうか”は「馬」の課題ということです。

これを「子供の宿題」で言い変えると、勉強しやすい環境を整えたり、励ましたりすることが「親」の課題であり、宿題をするかどうかが「子供」の課題となります。

特に重要なのは「子供を水辺に連れていくまでの過程」です。 親は以下のような『援助の姿勢』を見せ、子供が自らの力で課題に向き合うよう働きかけることが肝要なのだそうです。

  • 勉強しやすい環境を整える。
  • 勉強は楽しいことだと思わせる。
  • 成長している子供を励ます。
  • 子供から何か質問が来ない限り、そっと見守る

これをアドラー心理学では『勇気づけ』と言います。

自分の課題に介入させない

「他人」が「自分」の課題に介入しようとしたとき、無下に断ることもし辛いと思います。「他人」は「自分」に対して何かしらの”目的”をもってその課題に介入してこようとしている訳で、それをはっきり”No"と答えると「他人」はムッとするでしょう。その後の関係に影響を及ぼす可能性もあります。でも、その程度で崩れる関係ならむしろ壊してしまった方がよいとするのがアドラー心理学の考え方です。

何度も繰り返しますが、”すべての悩みは対人関係から”生まれます。 それゆえ人は、対人関係からも”自由”になることを求めています。しかし、一人で生きていくことはできないので「共同体」の中で他者と協力しあって生きていかざるを得ません。そのため人は「他人」に嫌われないよう、「他人」の顔色を伺いながらなるべく穏便に事を済まそうと心がけます。 でも、すべての人から嫌われない生き方なんて不可能であり、「他人」の顔色を伺ってばかりの生き方など不自由極まりありません。

言い変えると、”自由”とは”他者から嫌われること”になるのです。

しかし人は「嫌われたくない」という普遍的な欲求をもっています。そのため、嫌われることはとても苦しいです。 それでも、嫌われる可能性を恐れることなく前に進んでいくことが人間にとっての”自由”であり、幸せになるための勇気でもあるのです。これはつまり「嫌われることを厭わない勇気」とも言えます。 このことを理解したとき、対人関係は一気に楽になると言います。

先ほども述べた馬のことわざのように、自分の行動(馬を水辺に連れていく)によって他人が「好意をもつか、嫌悪を抱くか」(馬が水を飲むか飲まないか)は他者の課題と完全に切り分けて考えることが、対人関係を楽にする肝ということですね。

  • 「自分」の課題に「他人」が割り込もうとしてきたときは、はっきり「No」と言う。
  • これは「他人」が「自分」の自由を奪おうとする行為。
  • 自由を行使した結果、多少ギクシャクすることもあるかも知れないが、その結果壊れてしまう程度の関係であれば、むしろ壊してしまってよい。大事なのは、「自分」の自由を尊重すること。「他人」から嫌われる可能性を恐れることなく前に進んでいこう。

ゴールは「共同体感覚」

ここまでの流れをおさらいすると、まず”対人関係の悩み”を「人生のタスク」(どういった関係の人との間の悩みなのか)を分類し、その悩みの課題を「課題の分離」で自分の課題と他人の課題に分離する、という流れでした。

そして、アドラー心理学の”対人関係の悩み”解決のためのゴールは「共同体感覚を持つ」ことだと言います。 「共同体感覚」とは「他者を仲間とみなし、そこに居場所を感じられること」です。

共同体とは

「共同体」の範囲は個人同士の関係から宇宙全体(生物・無生物問わない)、果ては無限大に広がるそうです。私のイメージは下図のような感じです。 f:id:mcngmc:20200610055200p:plain

人は誰しも、何らかの共同体に所属しています。それは「家庭」や「学校」「会社」だけでなく、「地域」や「国家」など目に見えない繋がりも含まれ、一度に複数の共同体に所属していると言えます。 この「複数の共同体に所属している」という点が大事なポイントです。

例えば自分や自分の子供がが学生で、「学校」に大きな所属感を感じて過ごしていたとします。 でも、その学校でいじめに遭うなどのトラブルに巻き込まれたとします。そうすると学校に所属感を得られなくなり、居場所を無くした結果、より小さな共同体である「家庭」に引きこもるようになってしまいます。

まずは所属する「学校」の共同体においてその問題の解決に取り組むことが大前提ですが、それが困難な場合は「より大きな共同体」に目を向けます。

例えば「学校」よりも大きな共同体である「地域」に目を向けると、学校は同じ地域の中に複数あったり、少し離れた別の地域にも存在するので、いっそ転校してしまうのも一つの手段です。壁は多いでしょうが、小さな共同体の中に閉じこもって若い頃の貴重な時間をふいにしてしまうよりはずっと良いと思います。

社会人も、今いる「会社」に所属感を得られなくなったらそこに固執するのを止め、別の「会社」に転職、あるいは起業すればよいのです。

「転校」や「転職」には大変大きな勇気が必要ですが、共同体に「居ずらさ」を強く感じたまま居座ることは自身の体と心を蝕み、確実に悪影響を及ぼします。だからと言って学校や仕事に行くのを止めて「小さな共同体」に閉じこもると世界が狭まってしまいます。

「より大きな共同体」に目を向けて何かしらの共同体に所属し、人や社会と接することが自分の世界を広げ、豊かな人生を送る礎となるのです。

共同体感覚を得るために必要な3つの要素

「共同体感覚」とは、”自己への執着(セルフインタレスト)”を、”他者への関心(ソーシャルインタレスト)”に切り替えることで持てるようになると言います。 それを成し得るためのポイントが「自己受容」「他者信頼」「他者貢献」の3つです。

自己受容

自己受容とは『ありのままの「私」を受け入れること。そして変えられるものについて変えていく「勇気」を持つこと』です。 人は誰しも「私」という器を捨てることも交換することもできません。しかし「私」という器をどう使うかは私自身が決めることができます。 例えばテストの成績が思ったより振るわなかったとき、自分を「ダメな奴」と責めて失意のまま身動きがとれなくなったり、「今回は運が悪かっただけ」と言い訳して見て見ぬふりをしたりすることがあると思います。そんな「私」を投げ出さずに真正面から受け止め、成績が悪くなった原因を分析・対処していくことが自己受容の精神です。

他者信頼

他者信頼とは『他者を無条件で信じること』です。 これはとても難しいことだと思います。仮に自分は無条件で相手を信じ切ったとしても、それを裏切られる可能性だってあるのですから。 しかし、アドラー心理学ではこう考えます。

  • 他者が私を裏切るかどうかは「他者の課題」であり、自分にはどうすることもできない。
  • 反対に自分が他者に対して常に懐疑的な視線を送ると、それは必ず相手に察知されて一生誰とも深い関係を築くことはできない。
  • ならばいっそ、自分だけでも『相手のことを無条件で信じてみる』。
  • もし裏切られたら、その時は思いっきり悲しんでいい。そうして気持ちを切り替えて、また前向きに他者信頼の関係を築いていく。
他者貢献

他者貢献とは『仲間である他者に対して何らかの働きかけをしていくこと、貢献しようとすること』になります。 最も分かりやすい他者貢献は「仕事」です。私たちは「会社」という共同体に「労働」によって他者貢献を行い、”自分は会社(共同体)の役に立っている”と実感し、貢献感を得るのです。 このように私たちは所属する共同体にとって「私」が有益であると感じた時に、自らの価値を実感できます。 そのため「私」を捨てて誰かに尽くすような自己犠牲の精神とは反対で、「私」の存在価値を実感するために貢献活動を行うというのがアドラー心理学の考え方です。 それって結局自分のためにやっていることなので、偽善的行為じゃないの?と思われるでしょうが、本書の中でこう書かれています。

他者を「敵」だと見なしたままおこなう貢献は、もしかすると偽善につながるのかもしれません。しかし、他者が「仲間」であるのなら、いかなる貢献も偽善にはならないはずです。

アドラー心理学の「行動を支える心理面の目標」の2つ目にもありました『人々は私の仲間である、と言う意識』を持った上で、他者(仲間)に行う貢献はいかなるものであっても偽善にはならないという考え方です。逆に『敵』とみなすような相手に貢献しようとする行為は何らかの思惑あってのことなので、それは『偽善』とも言えるということです。

アドラー心理学の「目標」と「共同体感覚」の関係

ここまで”共同体感覚”を得るためのに必要な「自己受容」「他者信頼」「他者貢献」の3つの要素について述べましたが、これら3つの要素は円環構造で結びついます。

  • ありのままの自分を受け入れる(自己受容)からこそ↓
  • 裏切りを恐れることなく「他者信頼」することができる。↓
  • そして、他者に無条件の信頼を寄せて、『人々は自分の仲間』だと思えているからこそ「他者貢献」することができる。↓
  • さらに、他者に貢献しているからこそ『私は誰かの役になっている』と思えるようになり、より「ありのままの自分」を受け入れることができるようになる。(自己受容)↑↑↑

そしてここで、アドラー心理学が掲げる「目標」を思い出してください。

  • 行動面の目標
    1. 自立する事
    2. 社会と調和して暮らすこと
  • この行動を支える心理面の目標
    1. 私には能力がある、と言う意識
    2. 人々は私の仲間である、と言う意識

1は「自己受容」につながる目標です。
2は「他者信頼」、「他者貢献」に繋がる目標です。
つまり、アドラー心理学の”目標”とは「共同体感覚を持つこと」に他ならないのです。

すべては「貢献感」のために

アドラー心理学の「幸福」とは

アドラー心理学では、人間にとって一番の不幸は『自分を好きになれないこと』だと言います。 自分を好きになるにはどうすればよいのか?アドラーの回答は「他者貢献をせよ」でした。 「他者貢献」とは前述の通り「共同体に対して何らかの働きかけをし、貢献しようとすること」であり、人は「自分が共同体の役に立っている」と感じた時に、自身の価値を実感できるのです。 つまりは「貢献感」を得ることで自分を好きになることができ、それが幸福に繋がる。 アドラー心理学における「幸福」とは「貢献感」なのです。

しかも、目に見える形の貢献でなくても「私は誰かの役に立っている」という主観的な感覚でも良いと言うのです。なぜなら、自分の行為が役に立っているかどうかを決めるのは『他者の課題』であり、自分の行為に対する他者の真の評価は分かり得ないからです。 他者の評価はこの際バッサリ切り捨てて、自分の中で「貢献できた」と感じることができればいいなんて、とても大胆な解釈ですが自分はとても共感しました。

自己実現による幸福との違い

「幸福」とは即ち「貢献感」であるという説ですが、「いやいや『何か大きな目標を達成したときこそが真の幸福』なのでは?」と当然思いますよね。 そこで、「目標」を「登山」に例えてみます。そうすると「登頂=目標達成」であり、それによって幸福を得られ、自分の人生の中でも一区切りがつき、新たな人生のスタートを切ることができます。 このような思考において登山中は「人生の途上」であり、もし不慮の事故や病気で登頂が叶わなかった場合、人生は途上のまま中断される、ということになります。 これを本書では、古代ギリシアアリストテレスの哲学における「キネーシス」的な考え方と呼んでいます。キネーシスとは「始点と終点があり、始点から終点までの運動はできるだけ効率的で速やかに達成できることが望ましい」とする考え方だそうです。

このようなキネーシス的考えで、人生に始点~終点(目標達成)の『線』を結ぶのではなく、人生とは『点の連続』と考えようというのが本書の主張です。

人生とは『点の連続(連続する刹那)』であり、呼吸をしている『今この瞬間』が「大切な人生の一瞬」なのです。その一瞬一瞬を真剣に生きた結果、目標が達成されるのです。これをアリストテレスの哲学では「エネルゲイア」といい、『今なしつつある動きが、そのまま成してしまったという動き』を意味します。「登山」で言うと、とにかく登頂することが目的で、手段としてヘリコプターを使うことも厭わないとするのがキネーシス、「登山をしている/した」こと自体に重きを置くのがエネルゲイア的思想です。

本書ではこのエネルゲイア的な生き方を「ダンスをするように生きる」と表現しています。

  • 人生とは、今この瞬間をくるくるとダンスするように生きる、連続する刹那。
  • ふと周りを見渡した時に「こんなところまで来ていたのか」と気づかされる。
  • ヴァイオリンというダンスを踊ってきた人は、そのままプロになっていく人もいるだろう。別の場所に行きつくこともあるだろう。
  • でも、いずれの「生」も「途上」で終わったわけではない。
  • ダンスを踊っている、今ここが充実していればそれでいい。
  • 踊ることそれ自体が目的であって、ダンスによってどこかに到達しようとは誰も思わない。
  • 踊った結果としてどこかに到達することはある。踊っているのだから、その場にとどまることはない。しかし「目的地」は存在しない。

よって、このエネルゲイア的な「ダンスする生き方」においては、目標や計画を立てることに意味はないとしています。(「人生」の大いなる目標の事を指していて、小さな目標は有用であると自分は解釈しています。) なまじ詳細な目標や計画を立てると、そこで満足して終わってしまうことも多いものです。それはこの先の未来がぼんやり見えたことによる満足感や安堵であったり、あるいは「やっぱり無理だ」と諦めてしまうからです。

その「ぼんやり見えた未来」には何の意味もありません。本書の言葉を借りると、そんな物より「舞台俳優が浴びるような目の前の客席すら見えないくらいの強烈なスポットライト」を浴びることです。そうすると、目の前にぼんやり見えていた(気がする)未来や過去など全く見えなくなります。人生とはそれが当たり前なのです。過去にどんなことがあったのか、この先の未来がどうなるのかなど「今ここ」で考える問題では全くなく、大切なのは「今ここ」にスポットライトを当てる、つまり今できることを「真剣に」かつ「丁寧に」やっていくことなのです。ここで何を「真剣に」かつ「丁寧に」やっていくかは私たちの自由です。 と言われても、何をすればよいのか迷うこともあるでしょう。そんな時、道標となるのが”他者貢献”である・・・とするのが、本書の主張であり結論です。

とても熱いものを感じました。簡単に例えるなら「病気で苦しむ人を助ける医者になりたい(他社貢献)」ので、医大に入るため日々「真剣に」勉強に取り組む・・・といった姿勢でしょうか。

自分の悩みにどう向き合っていくか

ここまで「嫌われる勇気」のエッセンスを私なりに整理してきました。最後はこれを踏まえて、冒頭に述べた私の悩みについてどう向き合っていくかを、以下のようなフレームワークで感がて行きたいと思います。

項目 内容
タスクの分類 その悩みがどの”人生のタスク”に該当するかを分類する。
課題の分離 悩みに対する課題を洗い出し、それを「私の課題」と「他者の課題」に分類する。
自己受容 私の課題とすべき点、不十分な点を見出し、素直に認める。
他者信頼 解決策を実行するにあたり「他者」に関連する気になることを挙げ、その上で他者を信頼する。
他者貢献 悩みの解決によって他者に貢献できることを挙げる。
ToDo 悩みの解決のためにこれからする行動。

1. 物覚えが悪い

「覚える」には「インプット」よりも「アウトプット」が重要です。アウトプットする先は大抵「人」になります。私は人に話す、教えるといったことが正直苦手です。口下手で上手に話せないので、そんな自分を「恥ずかしい」と思ってしまうのです。

どのタスク?
  • 仕事、交友
課題の分離

【課題】
  ①口下手で人に話したり教えたりすることが苦手
  ②相手に批判されたり蔑まれたりするのが怖い
【私の課題】
  ①
【他者の課題】
  ②

自己受容
  • 上手に話せない「私」のことを、私自身が受け入れる。
他者信頼
  • 周囲の他者は、上手に話せない私のことを蔑んだりはしないと信じる。
  • 例え批判されたとしても、それは「建設的な批判」であって、私を貶めたりするためではない、と信じる。
他者貢献(ゴール:幸福)
  • 物覚えがよくなることで仕事等様々な場面で良いパフォーマンスを発揮でき、周囲の人に貢献できる度合いが高まる。(仕事や、様々なコミュニティに対しての貢献)
ToDo
  • 「口下手」なことは気にしない。
  • まずは積極的に人に「話す」「書く」「教える」。
  • そういったシチュエーションを意識して作るよう心掛ける。

2. やりたいことをやる時間がない

仕事や育児や家事で自分の時間がとれないという悩みでした。

どのタスク?
  • 仕事、愛
課題の分離

【課題】
  ①仕事が朝早く、夜遅い
  ②子供が家にいて起きている間は育児に集中する必要がある
  ③共働きのため、家事を分担してやる必要がある
【私の課題】
  ①、②、③
【他者の課題】
  なし

自己受容
  • 子供と向き合える「育児」の時間は絶対に必要。
  • 仕事も家事も必要なこと。
  • よって、これらの時間を削るより、朝早起きして自由な時間を作ることにする。
他者信頼
  • 私が早起きしたとしても、誰にもそれを疎ましく思うことはないだろう。
他者貢献(ゴール:幸福)
  • やりたいことができてストレス緩和。(自分へ貢献)
  • その状態で育児や家事、仕事に臨めることは、良いパフォーマンスに繋がる。(仕事のコミュニティ、家族への貢献)
ToDo
  • 夜は早めに寝て朝4時に起きる。
  • 家族が起きてくるまでの時間を自分の時間として活用する。

3. 集中力がない

自分の能力に対する悩みです。

どのタスク?
  • 仕事、交友、愛
課題の分離

【課題】
  ①集中したい物事とは別のことに気を取られてしまう
  ②集中して取り組んでいる最中に声をかけられたりする
  ③時間を決めずにダラダラとやってしまう
【私の課題】
  ①、③
【他者の課題】
  ②

自己受容
  • 自分はすぐに別のことに気を取られたりがちである。
  • 自分は作業をダラダラと取り組んでしまう所がある。
他者信頼
  • 他者は悪意を持って集中を阻害しようとしているわけではない。(しょうがないと受け止める寛容さを持とう)
他者貢献(ゴール:幸福)
  • 集中することで、仕事や家事をより短時間でこなせて、家族と過ごす時間も増える。(仕事・家族のコミュニティに貢献)
  • 達成感から、幸福感を得られる。(自分への貢献)
  • 集中、習慣化によりこれまでより短時間で仕事や家事がこなせるようになる。(仕事・家族のコミュニティに貢献)
ToDo
  • 作業を15~30分に区切り、都度短い休憩を挟む。
  • 作業の際は姿勢を正す。
  • 作業には期限を設ける
  • 以上のことができたか、モニタリングする(セルフモニタリング)

4. 仕事で苦手なお客様がいる

過去の仕事のプロジェクトのお客様ですが、私は望まれたレベルの仕事ができずに迷惑をかけて怒らせてしまい、最後にはプロジェクトを外されました。今でも同じフロアで共に働いているのですが、それ以降は顔を見るのも廊下ですれ違うことも気まずく委縮するようになってしまいました。

どのタスク?
  • 仕事
課題の分離

【課題】
  ①仕事が要求レベルに達せず、お客様に迷惑をかけたこと
  ②それが原因で、私がお客さまに苦手意識を持っていること
  ③お客様が私を嫌うこと
【私の課題】
  ①、②
【他者の課題】
  ③

自己受容
  • 自分の仕事の出来の悪さを認めて反省し、次に生かすこと。
  • お客様に苦手意識を持つことは仕方ないと受け入れる。
  • この失敗でそのお客様との関係は今後一切ないだろう。いまだ顔を合わせる機会があるのは正直しんどいが、お客様が私を嫌うことを私はどうしようもできないので、例え無視されようが、他のお客様同様に接することを心掛ける。
他者信頼
  • この反省を生かして別のプロジェクトで成果を出せばきっと職場のメンバーは認めてくれるだろう。
他者貢献(ゴール:幸福)
  • 上記の通り、このプロジェクトの反省を次の成果につなげることで会社に貢献できる。(仕事のコミュニティに貢献)
ToDo
  • プロジェクトの反省点と、どうすれば失敗しなかったかを整理し、実践する。
  • 今後苦手なお客様と顔を合わせても、「嫌われる(嫌われている)勇気」を胸に無難に接する。

まとめ

以上のように自分の悩みに対峙することで、自分の中に解決の光を見ることができました。 このことを踏まえて日々「今この瞬間を真剣に生きる」ことを心掛けようと思います。

私の心の靄を払ってくれたこの本書とアドラー心理学に、心からお礼を申し上げたいです。

あとがき

共同体について記載しているとき、ふと以下のようなことが頭をよぎりました。

自分には1歳になる子供がいます。 いずれ小学校に上がっていくでしょう。その時、もし子供がいじめられたら私は子供に対して、学校に対して、いじめの当事者、またはその親に対してどう対処したらよいのだろう。 「子供がいじめられている」という悩みにどう向き合うべきなのだろう、と。

でも、「いじめ」は子供自身の課題ですよね。そこに親が踏み込むことはアドラー心理学の「課題の分離」に反します。 しかし、相手の悩みや問題について相手から協力を求められ、それを引き受けたとしたらそれは「共同の課題」という扱いになるそうです。

kemuri7.com

予防処置ではありませんが、少し考えてみたいと思います。

どのタスク?
  • 仕事、交友
いじめる側の目的
  • (いじめ被害者に)勝ちたい、優位な立場になりたい
  • 以前に(いじめ被害者に)いじめられたからその仕返し
  • むかつくから
  • ストレス発散
  • etc

パッと浮かんだだけで以上のような目的が挙げられると思います(当然他にもあると思います)。これらの目的の根底は、いじめる側の何らかのSOSの場合も考えられますし、根っからのいじめっ子が面白おかしくやっているだけの場合もありますし、その見極めが必要です。

課題の分離

いじめの原因(いじめる側の目的)が明確でないと真の意味での課題の分離はできないと判断しました。

ただ、一般論で述べると以下の2点が挙げられると思います。
①普通の生活、交友関係を築いて平穏に暮らすのは自分の課題
②私をいじめるのは他者の課題

他者の課題に自分は踏み込まない、自分の課題に他者を踏み込ませないという課題の分離の原理原則に従うと、話し合って「今後お互い干渉はしないことにする」というのが結論かと思いました。(もちろん、話し合ってお互い仲良くやり直せることが一番ですが・・・)

そこにいきつくために、まず親がすることは

  • まず、子供に「自分は味方だ」と伝える
  • 告白した勇気をたたえ、これまでの頑張りを認める
  • 先生を信じて、学校に相談する(いきなり学校や先生を「敵」扱いして詰め寄らない)

それでも解決に至らない場合は、外の共同体に目を向けて「転校」を視野にいれるべきでしょうか。

ただ、子供がその学校を気に入っていた場合どうすべきでしょう。その場合できることは、いじめ加害者とは別のクラスにしてもらうくらいでしょうか。

自己受容
  • 子はいじめられていることを受け入れ、素直に親に告白・相談する。
  • 親は、自分の子供がいじめられていたことに気づけなかったことを反省する。だが過度に自分を戒め、狼狽したりしない。冷静になり、子供や学校への対応に当たる。
他者信頼
  • 「子供は親を」「親は子を」「親子は先生を」信じ、問題に対処すること。また、いじめ加害者も「きっといじめを止めてくれる」と先ずは信じることも必要。
他者貢献(ゴール:幸福)
  • 理想は、いじめを辞めてもらい以前の関係に修復する、もしくは今後互いに干渉しないことを約束する。
  • これによって「親は子供に対して貢献」「子は親に対して心配をかけさせなくするという意味で貢献」し、互いに幸福となれる。

現状、自分にはこれ以上想像が及ばず浅い考察となってしまいました。今後もこの問題について、アドラー心理学に基づく解決方法を考えていきたいと思います。

参考にさせていただいたサイト mom-question.com

【書評】勉強大全 ひとりひとりにフィットする1からの勉強法

勉強大全 ひとりひとりにフィットする1からの勉強法

勉強大全 ひとりひとりにフィットする1からの勉強法

手に取った理由

ふらっと立ち寄った本屋さんで、「一押し」コーナーに本書が平積みされていました。 自分も資格試験を時々受験しますが、その勉強というと特に何も考えずにひたすらテキストを読み、問題集を解く手法なので、なんとなく「これでいいのか?」と感じていることもありました。

そんな時に本書を見かけ、何かヒントになるものはないかと思い購入しました。

感想

著者である伊沢 拓司さんが大学受験に当たって実践された勉強のメソッドが分かりやすく解説されています。自分が特に感銘を受けたのは受験に当たって実践された以下の手法です。


①まず「勉強法」を決める

 「勉強法」とは、"ゴール"(目標の大学)に向かうベクトルのこと。
 目指す大学によって問題の資質が異なる。
 目指す大学合格までの「最短ルート」を考える。(どういった勉強が、どの程度必要となるか)
 そのルートにおける、自分の今のポジションを把握する。

②「勉強法」に従いひたすら勉強する
③日々の勉強を評価する

 「今日の勉強で、本番の点数が何点上がったか」という具体的な指標を設け、
 勉強内容を毎日評価する

④「勉強法」を調整する

 日々の評価を踏まえて自分のポジションを再確認し、
 ”ベクトル”を調整しながら明日の勉強に反映する


これを見て自分は、ビジネス界でよく耳にする「PDCA」を思い出しました。

勉強法を考え、大学合格までの道筋を「計画(Plan)」し、それを「実行(Do)」する。
毎日「本番の点数に何点近づいたか」という具体的な指標をもとに勉強を「評価(Check)」して
ベクトルを「修正(Action)」する。このサイクルを繰り返し、目的を達成する様はまさに「PDCA」ですね。

この勉強法の手法で特に注目すべきは、指標(日々のチェックポイント)の設け方です。

勉強の場合「今日は○時間勉強した」といった”勉強時間”を指標の軸に考えがちですが、集中した1時間とだらだらした1時間とでは勉強の質が全く異なります。 この「勉強の質」を"勉強時間"で推し量ることは本来できないのですが、簡単なのでつい"時間"を軸に評価してしまいます。
私もそうでした。半分寝たような状態でも「1時間勉強したからまあいいや!」みたいな・・・


そこで著者は、「勉強時間」という軸を固定にし、その他の要素で比較して振り返ることを提唱しています。 例えば「今日の10時間は昨日の10時間より成果が出た気がするな・・・」と振り返ったとします。
"成果が出た"だけでは何を成し遂げた結果なのかよく分かりません。
そこで、成果=本番の点数が○点上がったと定義し、評価するというものです。

この「今日の○時間の勉強で本番の点数が1点上げられたか」という観点で毎日の終わりに振り返り、 「今日は基礎をおさらいしたから、直接的に点数にはならなかったけど、応用問題で見返りがあるはずだ」 「今日は集中を欠いてなぞるだけの復習になってしまった。これでは点数にならない」 という気づきを得て、明日の勉強に生かしていくのです。

とても腑に落ちる考え方でした。
確かにPDCAの考え方は、ビジネスに限らず実生活でも応用できます。
ただ、それを個人で継続していくのはとても精神力のいるものです。
目標に向けて自分を厳しく律していくモチベーションも維持していかなければなりません。
でもその目標が、「どうしても自分が成し遂げたいこと」なのであれば、それも可能かも知れませんね。

モチベーションの話はさておき、今後の資格試験にあったってはこの「勉強法」を実勢していきたいと強く感じました。

【書評】SIMPLE RULES

手に取った理由

特に目的もなく立ち寄った書店で平積みされていた本書をたまたま見かけ、 「仕事が速い人」!という副タイトルのパワーワードに惹かれました(笑)

就職して12年も経つ私ですが、いまだ「仕事が速い人」には程遠く、仕事を無駄なく効率よく、素早く終わらせて毎日定時で帰る! そんなサラリーマンに少しでも近づけるヒントを求めて購入しました。

感想

本書では、米国の衛生兵が負傷者の負傷の程度を選別する(トリアージ)際のルールや、経営難に陥った企業が課題に着手する際のルールなどの実例を交え、シンプルなルールが物事を成すこと、あるいは問題解決に効果的であるかを説いてくれています。

なぜ「シンプルなルール」が効果的であるかは本書の”はじめに”で早速述べられますが、以下の4つの特徴によります。

  1. ルールの数が少ない

  2. 使う人に合わせてカスタマイズできる

  3. 具体的である

  4. 柔軟性がある


「数が少ない」=「簡単に覚えられる」

「カスタマイズできる」=「微調整ができる」

「具体的である」=「やることがはっきりしている」

故に、目標・目的に向けて迷いない判断、行動が取りやすくなるのだと私は解釈しました。ルール作りについてもっと掘り下げて解説してくれています。 ここでは簡単に紹介しますが、ルールには以下の6つの特色があるそうです。

1. 境界線ルール

 "イエス"か"ノー"かを見極めるルール。「○○できるか」等。

2. 優先順位ルール

 何を優先すべきかを定めるルール。「もっとも○○なものはどれか」等。

3. 停止ルール

 止めどきを決めるルール。「○○になったら、××は止める」等。

4. ハウツールール

 至る所で使われている。「○○する」「××しない」等。

5. コーディネーションルール

 他者との協調、集団行動をとる際のルール。(これは簡単な例を挙げるのが難しいので本書をそのまま引用しますが、鳥が群衆で規則正しく並んで飛ぶ際、「隣の鳥に近づきすぎない」などのルールの下で成り立っているそうです)

6. タイミングルール

 何かをやる時間、タイミングを決めるルール。「毎朝同じ時間に起きる」等

実践

本書をヒントに、「毎日定時で帰る!」を目標に、私なりにルールを作ってみました。

まずは「なぜ、定時で上がれないのか」をテーマに要因・原因を自分なりに分析しました。

なぜ、定時であがれないのかの自己分析表

以上の分析から作成した「毎日定時で帰るための仕事のルール」がこちらです。

• 作業の開始時刻をタイムトラッキングアプリに必ず記録する(ハウツールール)
• 30分考え込む場合は迷わず周囲に相談する(停止ルール)
• マルチタスクにしない(ハウツールール)
• 自分や部下に余裕が無い場合は急な依頼は断る(ハウツールール)
• 以下の条件に当てはまる業務は部下や後輩に依頼する(境界線ルール)
    ○ 自分が教えられる業務
    ○ できれば、部下・後輩の成長につながる業務
• 最も優先すべきは”家族”。その日の仕事が終わったら、速やかに退社する(優先順位ルール)
• 作業時間の見積もりは、自分の思う1.5倍を見積もる(ハウツールール)
• 手帳に記載するToDoを「優先度」によって色違いの付箋に記入する(ハウツールール)
• 午後以降、300ml以上のコーヒーを飲まない(タイミングルール)

・・・見事に「ハウツールール」ばかりになってしまいましたね。数ももっと絞りたかったのですが、原因一つ一つに対策するようにルール作りをした結果、この数になってしまいました。

「シンプルルール」になっていない気がします、いや、なっていませんがとりあえずこのルールで回してみて、上手くいったこと、いかなかったことを振り返りながらルールを改善してきたいと思います。


【追記】

2020/01/29

自分ルールの「作業時間の記録」にタイムトラッキングアプリを使うようにしました。

自分の場合「aTimeLogger」というアプリです。

一つ一つのタスクにどれだけ時間を費やしているか一目でわかり、1日の振返りに大変役立っています。 これによってメリハリも生まれ、最近は定時で帰宅できています!

(結局、繁忙期かそうでないかによって定時退社の可否が大きく左右されてしまうのですが・・・)